判例・裁判例コラム

年俸制における賃金減額にはどのような規定が必要か?東京地裁の判断

東京地裁R7.6.5
ソフトウェア開発会社が公認会計士資格をもつ労働者を年俸制で採用。最初の年俸を800万円とした。しかし、勤務状況に問題があり、年俸を650万円に減額。労働者はこの減額は無効であるとして減額分の支払いを求めた。
→雇用契約上、この従業員の給与は年俸制であるところ、従業員は年俸減額に応じていないから、会社に従業員の年俸額を一方的に決定する権限があるかが問題となる。
この点、雇用契約書には、「給与の改定は、原則として7月と1月に実施する。ただし、改定が実施されない場合は上記年俸を継続して適用する。」とある。しかし、雇用契約書にも就業規則にも、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続、減額の限界の有無等具体的な定めが置かれていない。そうすると、上記の雇用契約書の記載は、会社と従業員の間で客観的で合理的な年俸額の決定方法を合意した場合に、これに従って、会社が従業員の年俸額を決定する権限を付与することを合意したものと解するのが相当である。
そして、会社は、あらかじめ定めた「力量基準レベル」に基づいて各従業員の力量・成果を査定して給与額を決定するという方法をとっており、この力量基準レベルを査定する際の考慮要素は示されている。しかし、考慮要素がどのように評価されて点数化されるのかは明らかでなく、また、どのような場合に、どの程度の金額が減額されるのかといった客観的な基準が示されたものでもない。また、年俸減額の限界も設定されておらず、減額の幅が大きくなりすぎないよう会社において事実上配慮して給与額を決定するというのであり、制度的に恣意性が排除されることが担保されているものともいえない。よって、会社と従業員の間で客観的で合理的な年俸額の決定方法が合意されているとは言えないから、会社が従業員の年俸額を一方的に決定する権限を有しているとは認められない。賃金減額は無効と判断

年俸制は成果主義の賃金制度ですから、成果が出なかった場合に、労働者の同意がなくても減額できなければ、制度として成り立たないように思います。しかし、そのためには、適切なルールの整備が必要です。ポストの裁判例のような雑な整備状況では、同意のない減額は1円たりともできません。
ポストの裁判例でも示されている「年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続、減額の限界の有無」について具体的な定めを置く必要がありました。年俸制の裁判例ではこの3要素、あるいはこれに不服申立手続を加えた4要素がルール化されていたかが問題とされることが多いです。
この4要素について就業規則で定めなければならないとする裁判例もありますが(東京高等裁判所判決平成20年4月9日)、これについては厳しすぎるという批判もあり、ポストの裁判例では必ずしも就業規則で定める必要はないという考え方をとっているようです。 いずれにしても、この3要素または4要素をルール化しておかなければ、年俸制といえども一方的な減額はできず、年俸制のルールの根幹が崩れてくるともいえますので注意が必要です。西川としては、厳格な考え方を採用する裁判例の立場に立っても認められるように、就業規則で4要素を定めることをお勧めします。
土曜日の私の講演に参加いただい中四国の先生方ありがとうございました。西川の令和7年の最終講演でした。来年1月は大阪と福岡で講演させていただきます。よろしくお願いいたします。

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