判例・裁判例コラム

従業員の退職後の競業避止義務違反について1000万円の支払命令。大阪高裁の判断の理由とは?

大阪高裁R7.6.25
土木工事業等を営む会社が在職中に競業行為が発覚した従業員に、誓約書を提出させた。誓約書は地域を限定せずに在職中及び退職後5年間の競業を禁止し、違反の場合は違約金2000万円を支払うほか、これを超える損害があるときはその部分も賠償するとする内容。しかし、従業員はその後すぐに退職し、競業行為に及んだため、会社は違約金2000万円等を請求する訴訟を提起。これに対し、従業員は、「5年の競業避止義務は公序良俗に反し、無効である」と主張。また、違約金の設定は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定める労働基準法16条に違反すると主張した。
→本件誓約書は、従業員の義務違反行為を踏まえ、その防止の観点から作成されたものであるから、会社の正当な利益の保護を目的とする合理的なものといえ、義務違反行為を前提とせずに競業避止義務を定めた場合と同様に解することはできない。競業避止義務規定は、退職後2年間の限度で有効。そして、労働基準法16条の趣旨は、違約金等の請求をされることを恐れて、労働者が自由に退職できなくなるなど、不当に労働者の自由意思が束縛されることを防止することにある。これに対し、退職後の行為についての違約金の定めは、労働者の退職の自由などを直ちに制限することにはならない。また、退職後の競業避止義務の不履行については、労働契約終了後の違反行為が問題となるため、これを労働基準法16条の「労働契約の不履行」に当たるということもできない。さらに、競業避止義務違反によって生じた損害を立証するのは困難な場合が多く、本件のように既に退職前の競業行為が発覚している状況において、労働契約終了後の競業避止義務違反に対して使用者が違約金を定めることができないと解するのは、かえって公平を欠く。したがって、違約金を設定した誓約書の条項のうち、退職前の競業行為を対象とする部分については、労働基準法16条に反し無効と解されるが、退職後の競業行為を対象とする部分については、同条に反するということはできない。ただし、この従業員の約3年1ヶ月という在籍期間や月約36万円という給与額を踏まえると、2000万円という違約金の金額は、不当に高額というべきであり、その2分の1の額(1000万円)を超える部分については、公序良俗に反し無効と解すべきである。よって、誓約書の違約金の定めは、1000万円の限度で有効と解するのが相当と判断。1000万円の支払命令。

退職後の競業避止義務については以下でも解説していますのであわせてご参照ください。
https://kigyobengo.com/media/useful/1454.html

退職後の競業避止義務違反に関する違約金の設定について、労働基準法16条の適用がないと正面から判示した裁判例は、西川としては初めて見るものです。このような考え方が固まるかわかりませんが、競業避止義務に関する誓約書を作るうえで参考になると思います。この裁判例も判示している通り、競業避止義務違反によって生じた損害を立証するのは困難な場合も多く、使用者としては実効性確保のために違約金設定までしておきたいところです。
一方、2年間の競業避止義務を代償措置なく認めた点や1000万円の違約金までは有効とした点はこの事案の特殊性を反映したものだといえますが、同様の場面も少なくないと思われ、参考になると思います。違約金条項を設定した競業避止義務誓約書の作成例については、拙書「労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式作成ハンドブック」にも3パターン掲載していますので、お持ちの方はご参照ください。

ジョブ型雇用の期待外れ解雇は有効?東京地裁の判断事例。前のページ

団体交渉中に組合側が「おい、ちゃんと聞かんかい、こら」「何が怖いの、こら。」などと発言。この場合も、法人による団交打ち切りは不当労働行為?次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  4. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  5. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    過半数代表選出にあたり無投票者は有効投票にみなすと定めた場合の効力

    松山地裁R5.12.20大学が過半数代表者選出規程に、信任投票で投票…

  2. 判例・裁判例コラム

    労災請求における事業主証明の拒否が問題になった事案

    大阪地裁R5.7.27従業員が労災保険の休業補償給付支給請求書を送付…

  3. 判例・裁判例コラム

    東京地裁R3.2.15

    不動産会社の部長が営業担当の従業員に、売上が上がらなければ退職しても…

  4. 判例・裁判例コラム

    些細なミスを広範に注意した後の能力不足解雇

    東京地裁R4.2.2職員約900名の法人が新卒者を月給約21…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    業績悪化で再雇用社員に勤務日削減の提示(週5→週3)⇒労働者が拒否して雇止め無効…
  2. 判例・裁判例コラム

    始業時刻前の出勤も賃金支払義務あり?さいたま地裁の判断
  3. 判例・裁判例コラム

    熱中症対策をしていたのに会社が敗訴! 裁判所が認定した「見落とし」とは?
  4. 判例・裁判例コラム

    郵便局職員の制服への着替え時間は労働時間?
  5. 判例・裁判例コラム

    逮捕・勾留中でも「弁明の機会」は必要? 懲戒解雇が有効とされた学校の対応とは【大…
PAGE TOP