東京地裁R8.3.30
協同組合が、求人票に「転勤の場合は本人の希望を考慮した上で決定します。(住宅の転居は伴いません。)」などと記載して職員を募集。
しかし、3年半後、往復約5時間かかる事業所への転勤を命じた。
→転勤先の事業所においては、職員5名のうち1名が退職し、求人をしていたが、さらに1名が退職する意向を示していた。他の事業所からの異動による職員の補充を早急に行う必要があったこと、本部事務局においては本件職員を転出させても支障がないこと、他の事業所においては職員を転出させる余裕がないことなどを理由に本件職員が選ばれて転勤命令がされたことが認められ、転勤命令には業務上の必要性があった。
また、本件転勤命令が不当な動機・目的をもってされたと認めるに足りる証拠もない。
そして、本件職員が負うことになる不利益は小さくはないが、なお通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえない。
転勤命令が権利の濫用に当たるとはいえないと判断。
企業側から見たポイント
本件では、求人票に「住宅の転居は伴いません」と記載があったことも、往復5時間かかる事業所への転勤命令が争われることになった要因の1つのように感じました。往復5時間が「転居は伴わない」転勤の範囲に入るかどうかは人によって受け止め方が違うため、このような書き方は紛争の原因になり得るように思います。
勤務地の範囲を限定するときは、その範囲自体が争いにならないよう、はっきりと線を引く必要があります。そして、これは労働条件通知書の段階だけでなく、求人情報の段階から意識しておくべきです。
令和6年4月以降、企業は求人情報と採用時の労働条件通知書の両方で、入社直後の就業場所に加えて、雇用期間中の就業場所の変更の範囲を明示することが義務付けられています。
この点について、厚生労働省の資料では、限定の仕方の例として次のような書き方も挙げられています。
「勤務地は採用時の居住地から通勤可能な事業場とする」
「自宅から通勤可能なエリア内で勤務するものとする」
しかし、これはどちらも「通勤可能」の解釈で争いになる余地が残ります。例えば通勤時間の上限を数字で示すなど、より客観的で明確な定め方にするのが適切です。




