東京地裁R7.3.13
管理職から非管理職への降格により月額給与を75万6500円→59万4000円に大幅減額された銀行職員が訴訟を提起した
→銀行は、就業規則において、各行員の役割を、その重要度に応じて等級に分類・序列化し、年1回の人事考課に基づき、各行員の役割の見直しを行い、これに応じて等級・号俸が見直され、俸給額が決定する制度を採用していると認められる。本件降格は、同制度の下、人事権の行使として行われたと認められ、労働契約上の根拠を有する。
一方、減給は、就業規則等に降給が規定されているだけでなく、降給が決定される過程に合理性があること、その過程が従業員に告知されてその言い分を聞く等の公正な手続が存することを要する。
この点、就業規則において、各等級の果たすべき役割基準が具体的に定められ、俸給が等級・号俸に応じて「別途定める基準」に基づき決定されること、等級・号俸は年1回、人事考課に基づき決定されることが定められていたのであり、人事考課の結果、現在の等級に求められる役割を果たしていないとの評価を受ければ、等級が下げられ、これに応じて俸給が下がることが規定され、労働契約の内容となっていたと評価できる。また、従業員に対しては、上記「別途定める基準」として、俸給テーブルが公開されていたから、等級・号俸が下げられた場合の俸給の減額幅も明示されていたといえる。また、就業規則に定める「俸給改定の際の基準」として、人事考課の手順を定めた手引きが行員に公開されており、各行員は、自身の等級に従って期待される役割を前提に、期ごとの成果責任・目標を自ら設定し、これを上司と共有し、中間レビューを経て、年度末時点の目標達成状況について7段階の最終評価(人事考課)を受けることとされていた。これらの人事考課の過程に不合理な点は見当たらず、目標設定時、中間レビュー時点において上司との面談が予定されている点で、人事考課の過程で行員が言い分を述べる機会も保障されていたといえる。したがって、本件減給についても、労働契約上の根拠が存在するということができる。
そして本件の降格は、部下の指導・育成を行うことができず、マネジメントする能力がないため、管理職層の役割基準を満たすことができなかったことなどによるものであり、激変緩和措置として、1年間の俸給は減額が10%にとどめられたことなどからすれば、職員の被る経済的不利益を必要最小限にとどめる配慮がされていたと評価できる。降格・減給ともに有効と判断。
従業員の同意のない一方的な給与減額が認められた事案です。
本件のような従業員の同意のない一方的な給与減額が有効とされるためには、①就業規則に適切な根拠規定がおかれ、②給与減額が権利濫用にあたらないことが必要です。そして、この①の点については、「就業規則において、減額の事由、方法及び減額の幅等について、具体的かつ明確な基準が定められていることが必要」などとする裁判例が多く、ここで不備があり、根拠規定不十分として使用者が敗訴する例がたくさん見られます。しかし、本件では、減額の事由、方法及び減額の幅等について、具体的かつ明確な基準が定められていたといえるでしょう。そのため、①は満たす、つまり、労働契約上の根拠が存在する、と判断されました。さらに②の点も問題なく、減額有効と判断されました。





