判例・裁判例コラム

仕事のミスで適応障害に…それでも“業務起因”は否定された―大阪地裁判決

大阪地裁R7.9.25
運送業で従業員(ドライバー)が本来立ち寄るべき集荷場所を忘れて集荷業務を行わずに、次の集荷場所に移動するミス。その4日後から適応障害を理由に欠勤を開始。1年以上休職したが休職期間満了による自然退職扱いとなった。
これについて従業員は、運行管理部長から、「自分、そんなんやったら、この先やっていけるわけないやろうが、ええ!?」「何回ミスするんや、うちでは無理やな。」「副所長には連絡したか知らんけど、俺には謝罪せえへんのか。」「はよ家帰りたいから適当なんか。」「なんでこんなミスをしたんや。」「こんなことで仕事をやっていけるわけがないやろ。」などとおよそ1時間にわたり叱責を受けたと主張。適応障害は業務に起因するものであり、自然退職扱いは不当であると主張した。
→従業員は上記のような叱責を受けたと主張するが、運行管理部長は否定している。また、従業員の受診時の問診票やカルテ等にも運行管理長から長時間にわたる過度な叱責を受けたことを示す記載はない。これらを踏まえると、運行管理部長による事情聴取や指導は、運行管理部長が主張するように20分程度だったと認められる。
そして、本件のミスは、人身事故等ではなく軽微な過誤事案であり、従業員へのペナルティ等は一切科されていない。従業員も労災申請を行っておらず、傷病手当金を受給していたこと、主治医が発症原因について「不詳」と判断していたことなどからすれば、発症に業務起因性があるとは認められない。自然退職扱いは許されないとする従業員の主張には理由がないと判断。

本件では、判決を読む限り、仕事のミスが原因で発症した(仕事のミスがなければ発症しなかった)という労働者の主張はその通りではないかと感じましたが、それだけで業務起因性が認められるわけではありません。
厚生労働省の労災認定基準によれば、仕事の上のミス等で業務起因性が認められるのは、以下のような事例です。
・ 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミス(倒産を招きかねないミス、大幅な業績悪化に繋がるミス、会社の信用を著しく傷つけるミス等)をし、事後対応にも当たった
・ 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスとまではいえないが、その事後対応に多大な労力を費やした (懲戒処分、降格、月給額を超える賠償責任の追及等重 いペナルティを課された、職場の人間関係が著しく悪化した等を含む)
・重大な事故、事件(倒産を招きかねない事態や大幅な 業績悪化に繋がる事態、会社の信用を著しく傷つける事態、他人を死亡させ、又は生死に関わるケガを負わせる事態等)の責任(監督責任等)を問われ、事後対応に多大な労力を費やした
・ 重大とまではいえない事故、事件ではあるが、その責任(監督責任等)を問われ、立場や職責を大きく上回る事後対応を行った(減給、降格等の重いペナルティが課された等を含む)
本件ではいずれにも当たらないことが明らかであり、これらの基準に照らしても、業務起因性を否定した判断は妥当といえます。

「“法定休日を決めていない会社”は35%払わなくていい?」東京地裁の結論!前のページ

精神疾患による休職を隠して応募した労働者。試用期間中の解雇は有効か?東京地裁の判断次のページ

ピックアップ記事

  1. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  2. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  3. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  4. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  5. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    診断書提出後もマスク着用を指示し続けたのは違法か?

    大阪地裁R5.5.22日本郵政株式会社がコロナ禍に郵便局職員にマスク…

  2. 判例・裁判例コラム

    サイボウズの記録に基づく残業代請求が認められなかった事例

    東京地裁R7.1.17建設業者で職人の手配や現場の管理などを…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    作業中にスズメバチに刺された事故は使用者の安全配慮義務違反?
  2. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整備を解説(令和6年11月1日施行)

    咲くやこの花法律事務所のこと

    【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  3. 判例・裁判例コラム

    労働者がプレス機で手指を骨折して損害賠償請求。裁判所が会社を勝訴させた理由とは?…
  4. 判例・裁判例コラム

    就業時間中にコンビニ駐車場で自社車両に向かって放尿し、目撃者から苦情があった運転…
  5. 判例・裁判例コラム

    ジョブ型雇用の従業員について、担当業務が廃止された場合の解雇の有効性
PAGE TOP