判例・裁判例コラム

社内で上司に対する暴行事件!懲戒処分は刑事処分の結果を待つべきか?最高裁の結論

最高裁H18.10.6

工場勤務の従業員が、課長代理に大声で怒鳴ったうえ、ネクタイや襟をつかんでその体を壁に押し付けるなどの暴行を加えた。 翌日も、課長代理を他の従業員とともに取り囲み、身動きできないようにして、膝を蹴り上げるなどの暴行を加え、課長代理が負傷
さらに、3か月後に、今度は、左手を課長代理の首に回し、右手で腹部をなぐる暴行。 会社は、課長代理が警察署などに告訴状を提出したことから、捜査の経過をまって会社としての処分を決めることした。 約6年後に検察官が不起訴処分を決めて通知。会社はこの従業員を諭旨退職処分としたが、この従業員が退職願を提出しなかったため、懲戒解雇。
→諭旨退職処分は事件から7年以上が経過した後にされたものであるところ、各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり、目撃者が存在したのであるから、捜査の結果を待たずとも処分を決めることは十分に可能であった。本件において長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。
しかも、使用者が従業員の非違行為について捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合において捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられる。 本件各事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分は、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠く。諭旨退職処分、懲戒解雇処分ともに無効と判断。

この事例のように、刑事処分の結果が出るまで異常に長くかかることもあります。
起訴されたか、不起訴になったかということも、懲戒処分が重すぎないかという観点から懲戒処分の有効性にも影響するため、難しいところではありますが、社内での非違行為、私生活上の非違行為、どちらについても、刑事処分の結果を待たずに、会社において事情聴取を行い、必要な処分をすることを基本とすべきです。

初めて就業規則を作ったら“労働条件の不利益変更”!? 7時間半→8時間で会社が負けた判決前のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  3. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  4. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  5. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    パワハラ加害者による調査協力拒否、調査妨害を理由とする普通解雇の有効性

    🚨上司がパワハラ調査を拒否し、職員に直接圧力。普通解雇は有効?東京地…

  2. 判例・裁判例コラム

    製造業で年収800万円の部長の管理監督者性

    大阪地裁R3.3.12取締役会に出席して経営方針の決定に参画…

  3. 判例・裁判例コラム

    配転命令を受けた従業員からの職種限定合意の主張が認められなかった事例

    大阪地裁R5.3.31製造業で30年以上システム課で勤務していた従業…

  4. 判例・裁判例コラム

    正社員に寒冷地手当を支給するが契約社員には支給しないことは違法?

    東京地裁R5.7.20日本郵便が正社員には寒冷地手当を支給するが契約…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    職務等級制度における給与減額・配置転換の限界
  2. 判例・裁判例コラム

    「担当職務の見直しに合わせ、給与の見直しを行う場合がある。見直し幅は、都度決定す…
  3. 判例・裁判例コラム

    自宅待機状態を続けさせたことが違法な退職勧奨であるとされた事例
  4. 判例・裁判例コラム

    主治医は復職可、産業医は復職不可と診断した従業員の復職可否について裁判所が判断し…
  5. 判例・裁判例コラム

    始業前の制服への着替え時間が労働時間にあたることが否定された事例
PAGE TOP