判例・裁判例コラム

「辞める前に有給休暇が取れない」という書き込みに対し会社が投稿者の開示請求!東京地裁の結論は?

東京地裁R5.5.9

転職情報サイトに「辞める前に有給休暇が取れないのが現状。社長や部長が有給は勘弁してくれと言ってくる。」と書き込まれた会社が、事実に反し、名誉権侵害にあたるとして、投稿者の氏名、住所等の開示を求めた
→この投稿は違法な労働環境にある企業であるとの印象を与えるものであるから、会社の社会的評価を低下させるものである。しかし、会社では、業務の引継ぎや顧客へのあいさつ等の必要により、最終出社日までに有給休暇を消化する都合がつかず、有給休暇の残日数を16日以上残して退職した退職者が複数いたという事情があった。
有給休暇の権利は、客観的要件を充足することによって法律上当然に発生する権利であって、勤務先会社の業務の引継ぎや顧客への挨拶等を優先させる必然性はないから、仮に業務の引継ぎや顧客への挨拶等のための勤務を要する事情があったとしても、それだけで従業員らが相当日数の有給休暇を残して退職した理由の説明として十分な合理性を有するものではない。従業員らが退職の意向を伝えた後に有給休暇の取得よりも業務の引継ぎや顧客への挨拶を優先させて勤務したということは、そこに会社の意向が少なからず働いていたことが推認される。
よって、投稿が真実であることをうかがわせるような事情が存在しないこともないとして、開示請求認めず。

有給休暇を16日以上残して退職した退職者が複数いたという実態などから、「辞める前に有給休暇が取れないのが現状」との書き込みについて名誉権侵害が明らかとは言えないと判断されてしまった事例です。
これだけ有給休暇を残して退職した人が複数いたというのは確かにちょっと異常な気がしますね。。

会社の安全配慮義務。どこまでやれば履行したといえる?福井地裁の判断前のページ

送別会で酩酊して助け起こされた女性がセクハラ被害を訴えて欠勤。会社は無断欠勤を理由に懲戒解雇!名古屋地裁の判断は?次のページ

ピックアップ記事

  1. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  2. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  3. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  4. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  5. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    シフト表の記載による休日の振り替え

    東京地裁R6.9.17トレーニングジムを経営する会社で従業員…

  2. 判例・裁判例コラム

    復職可否の立証責任

    東京地裁H25.1.31復職可否の立証責任労働者の治療・回復に係る情…

  3. 判例・裁判例コラム

    送別会帰りのタクシーでのセクハラと会社の使用者責任

    東京地裁R5.5.29上司の送別会の帰りのタクシーで上司が部下の女性…

  4. 判例・裁判例コラム

    解雇後に会社経営を始めた従業員からのバックペイの請求について判断した事例

    札幌地裁R5.4.7会社が営業所の所長を懲戒解雇した。その後、この元…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    まじめな職員が業務を期限までに終えられないことを苦に自殺したことについて、積極的…
  2. 判例・裁判例コラム

    職場内の盗撮。会社の対応は遅すぎ、被害者と加害者の優先順位を見誤っているとして賠…
  3. 判例・裁判例コラム

    管理監督者性が否定された場合は役職手当を固定残業代として扱う旨を定める規定の効力…
  4. 判例・裁判例コラム

    セミナー「ジョブ型雇用の就業規則の作り方とジョブ型雇用の裁判例」開催のお知らせ
  5. 判例・裁判例コラム

    社内で上司に対する暴行事件!懲戒処分は刑事処分の結果を待つべきか?最高裁の結論
PAGE TOP