判例・裁判例コラム

講師の賃金について「1授業(50分)時間当たり:2310円」と定め、授業準備やテスト採点について別途賃金を払わないことは違法?

東京地裁R6.5.31

私立学校の非常勤講師が、授業の準備、テストの作問と採点等といった業務についても賃金が支払われるべきだと主張。雇用契約書上、始業・終業時刻は「自身の担当時限に該当する時刻」とされ、賃金は「1授業(50分)時間当たり:2310円」とされていた。
→授業の準備、テストの作問と採点等の付随業務は、いずれも担当授業の時限の時間以外で実施すべきものである。
 もっとも、労働契約において労働時間に対応した賃金を支払うか否かは、使用者と労働者の合意に委ねられている。この点、本件労働契約は、1授業50分当たりの単価を2310円と定め、これに平常週における担当授業数を掛けたものに、年間の週数である52を掛け、これを12で割った額を給与月額と定めている。春休み、夏休み及び冬休みといった授業が実施されない時期についても、給与月額の支給額に変更はない。このような定めによれば、本件労働契約における1授業50分当たり2310円という定めは、あくまで月給制の賃金の算定方法を示したものであって、労働時間の長さに対応した賃金を支払うことを合意したものとはいえない。また、講師が在職中にれらの付随業務に対する賃金について別途の支払を求めたこともなかった。
 これらを踏まえれば、本件労働契約において、付随業務を実施した時間に対し月額給与以外の賃金を支払うことは合意されていないと認めるのが相当と判断。請求認めず。

PIP実施方法の問題点が指摘され、解雇が無効とされた事例前のページ

部下の上司に対するハラスメントについての懲戒処分次のページ

ピックアップ記事

  1. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  2. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  3. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  4. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  5. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    調剤薬局で患者の感情を害する言動をする薬剤師を解雇した事案

    大阪地裁R6.2.22調剤薬局が経験者の薬剤師を採用。履歴書には「前…

  2. 判例・裁判例コラム

    懲戒処分としての降格に伴い基本給、役付手当を減額することは有効か?

    東京高裁R3.6.23タイムカードを改ざんした部長を懲戒処分として次…

  3. 判例・裁判例コラム

    第三者名義の口座への給与の支払い

    大阪地裁R6.5.31会社代表者が、自身の娘の夫を会社で従業員として…

  4. 判例・裁判例コラム

    賃金減額について定める給与規程の不備

    東京地裁R5.1.11不動産会社が、給与規程において「同一等…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    午前9時を始業時刻とする会社で午前8時より前にタイムカードがされていた場合の早出…
  2. 判例・裁判例コラム

    会社はどこまで注意喚起すれば安全配慮義務を果たしたといえる?
  3. 判例・裁判例コラム

    教師が生徒からチョコレートをもらうことは懲戒事由?
  4. 判例・裁判例コラム

    就業規則による民法536条2項の適用排除が認められた例
  5. 判例・裁判例コラム

    休職について説明したにすぎず休職を命じていないとされた事例
PAGE TOP