判例・裁判例コラム

会社からタイムカード打刻を義務付けられている営業部長の管理監督者性

大阪地裁R7.1.30

製造業の営業部長が自分は管理監督者にはあたらないとして、割増賃金の支払いを求めた。
→①職務内容、権限、責任について
営業部長として、約20名いる社員の約半数が所属する営業部を統括。
売上目標を達成するための営業部の部門方針等を立案する役割を担い、年度方針の決定に実質的に関与。
営業部の社員の人事評価も行い、この人事評価をもとに社員に対する賞与の支給額が決定されていた。
売上の8割を占める主要取引先の営業を担当し、自身が設定した価格をもとに交渉を行っていたことからすると、営業業務における職務内容及び権限も重要なものであった。
②労働時間に関する裁量について
自身の判断により直行直帰していたものと認められ、社外業務、休憩、残業等の時間配分についても自らの裁量で律することができた。会社からタイムカードの打刻を義務付けられていたが、使用者が管理監督者として扱う者に対しても健康管理をすべき義務や深夜割増賃金を支払う義務を負っていることに鑑みると、会社が労働時間をタイムカードによって把握していたことをもって、一般社員と同じように出退勤時間を管理していたということはできない。出退勤の時間について自由な裁量があったとまでは認められないが、一般の社員と比較して緩やかに労働時間が管理され、一定の裁量によって労働時間を律することができたといえる。
③賃金等の待遇について
年収約689万円で、社員の中で最高額。自身と生産部長を除いた社員の中での最高額である第二営業課長の年収と比較すると約1.36倍、約200万円の差がある。管理監督者に相応しい待遇を受けていたということができる。 
→管理監督者にあたり、会社は時間外労働割増賃金の支払義務を負わないと判断

小学校4年生の子を育てる看護師からの夜勤免除申請に病院は応じる義務を負うか?前のページ

熱中症で亡くなった従業員の遺族からの損害賠償請求次のページ

ピックアップ記事

  1. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  2. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  3. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  4. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  5. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    懲戒処分としての降格に伴い基本給、役付手当を減額することは有効か?

    東京高裁R3.6.23タイムカードを改ざんした部長を懲戒処分として次…

  2. 判例・裁判例コラム

    クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?

    宮崎地裁R6.5.15食品販売会社の係長が37歳で自宅で突然死。→死…

  3. 判例・裁判例コラム

    採用内定後のバックグランドチェックの結果に基づく内定取り消し

    東京地裁R6.7.18外資系のコンサルティング会社が採用内定…

  4. 判例・裁判例コラム

    覚醒剤使用で懲戒解雇された従業員の退職金不支給についての判断事例

    東京地裁R5.12.19鉄道会社が覚醒剤使用で有罪判決を受けた車両検…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    業務に消極的な態度をとり、執務態度を改めない従業員の解雇
  2. 判例・裁判例コラム

    入社後約4年間にわたり「残業手当」の名目で支給していた賃金が時間外労働の対価とは…
  3. 判例・裁判例コラム

    労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例
  4. 判例・裁判例コラム

    変形労働時間制採用のために就業規則に260ページにわたる別表を設けてシフトパター…
  5. 判例・裁判例コラム

    訴訟をすれば有給休暇の時効がとまる?
PAGE TOP