判例・裁判例コラム

障害者雇用だと何も注意できない?「くしゃみするときは手を当てて」と指導した会社に、職員は合理的配慮義務違反と主張。裁判所の判断は!

岐阜地裁R4.8.30
高次脳機能障害や強迫性障害があり、障害者雇用されていた職員が、
・くしゃみをする際に手を当てるように注意され、これにより常時マスクをつけなければ不安になったこと
・台をふいたときに使用したビニール手袋のままでコップを洗うことを禁止されたこと
などが障害者に対する合理的配慮義務に違反すると主張。
他にも、
・出勤時のブラウス着用の強要
・業務指示者の突然の変更
・業務の突然の変更
・スーツ着用の強要
・革靴使用の強要
・バスでの移動の強制
などがあり、これらも合理的配慮義務違反であると主張。
会社に対して500万円の損害賠償を請求する訴訟を提起。
→雇用主が障害者である職員に対して自立した業務遂行ができるように相応の支援、指導を行うことは、許容される。
会社が、職員の業務遂行能力の拡大に資すると考えて提案(支援、指導)した場合については、それがその職員について配慮が求められている事項と抵触することのみをもって配慮義務に違反すると判断することは相当ではない。
その提案の目的、提案内容が職員に与える影響などを総合考慮して、配慮義務に違反するか否かを判断すべき。
この点、くしゃみをした人間に対して、くしゃみをする際には手を口元に当てるようにと注意を促すことは、いわば当然の言動であると認められる。
くしゃみをする際には手を口元に当てることは、社会人として一般に求められるマナーと考えられるから、職員に対しこのような行動をとることを求めることは、職員にとって、就労の機会の拡大につながるものと認められる。
また、汚れの付いた手袋のままで飲み物を入れる容器を洗わないとすることも、社会人として一般に求められるマナーと考えられるから、職員に対しこのような行動をとることを求めることは、その就労の機会の拡大につながるものと認められる。
よって、配慮義務に違反し、違法であったとは認められない。
また、出勤時のブラウス着用やスーツ着用については強要があったとは認められず、そのほか業務指示者の突然の変更、業務の突然の変更、革靴使用の強要、バスでの移動の強制などについても、職員の主張どおりの事実は認められない。
職員の請求認めず。

障害者雇用では、事業主には、障害の特性に応じた合理的配慮を提供する義務があります。
そのため、障害の特性に応じて指導方法や伝え方を工夫する必要はありますが、必要な指導は行うべきでしょう。
障害者雇用促進法は、障害のある労働者に、自ら進んで能力向上に努力することを求め、事業者には、障害者が職業人として自立しようとする努力に協力する責務 があるとしています(4条、5条)。障害の特性に配慮した方法で、業務遂行に必要な行動を身につけてもらうための指導を行うことも、事業主に求められる役割です。

白血病が寛解した社員の復職。主治医と産業医、どちらを優先すべき?裁判所の判断前のページ

「仕事がないのがつらい」障害者雇用の社員が自殺…会社の責任は?裁判所の判断次のページ

ピックアップ記事

  1. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  4. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  5. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    作業中にスズメバチに刺された事故は使用者の安全配慮義務違反?

    東京地裁R5.9.29公園の植栽管理に従事する職員がスズメバチに刺さ…

  2. 判例・裁判例コラム

    横浜地裁R3.11.30

    NHKの視聴者対応業務を受託する会社の職員が、卑わい発言を繰り返す視…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    ジョブ型雇用における能力不足解雇
  2. 判例・裁判例コラム

    退職日を前倒しさせたら“解雇扱い”に!退職日書面に署名があっても同意なしとされた…
  3. 判例・裁判例コラム

    飲食店経営会社が勤務中に販売用ビールの飲酒を繰り返したレストラン職員を懲戒解雇!…
  4. 判例・裁判例コラム

    「定年後だから賞与は安くていい」は通用する? →名古屋高裁、定年前との賞与格差を…
  5. 判例・裁判例コラム

    「週1回休ませてほしい」という主治医の診断書。会社は認める義務がある?【東京地裁…
PAGE TOP