判例・裁判例コラム

「仕事がないのがつらい」障害者雇用の社員が自殺…会社の責任は?裁判所の判断

札幌地裁R1.6.19
うつ病を発症して食品製造会社に障害者雇用枠で事務員として採用された女性が入社約10か月後に自宅で自殺。
遺族らは、女性は会社に業務量が少なくてつらいと申し出て、業務量を増やすことを依頼しており、それに会社が適切に対応しなかったと主張して、損害賠償請求訴訟を提起
→使用者が業務を与えず、または、地位、能力、経験に照らしてこれらとかけ離れた程度の低い業務にしか従事させない状態を継続させることは、業務上の合理性がなければ許されない。
上記状態の継続は、労働者に対し、使用者から必要とされていないという無力感を与え、劣等感や恥辱感を生じさせる危険性が高いといえ、期間及び具体的な状況等次第で、労働者に心理的負荷を与えることは十分あり得る。
上司は安全配慮義務の一内容として、この女性職員から業務量に関する申出があった場合には、現在の業務量による心理的負荷があるか、あるとしてどの程度のものかなどを検討し、裁量判断を経て、可能な範囲で対応し、対応が不可能であれば、女性職員に説明すべき義務を負っていたというべきである。
この点、本件で、上司は、女性職員から申出を受けて、その日のうちに業務量を増やすことを検討し、数日以内に面談を実施し、業務量増加を検討していることやその内容について女性職員に説明している。
また、その後、女性職員は、仕事をもらえており、手が空くことが少なくなった旨報告している。
これによれば、上司は放置することなく、速やかに、具体的な解決策を検討し、実際に実行していたといえる。
これに対し、遺族らは、女性職員が担当していた業務の中には、短時間での処理が可能なものが相当数あるなど、業務量の増加に対する申出に対応していなかったと主張する。
しかし、女性職員が一般事務を担当していたことからすると、その担当可能な業務内容には自ずと限界がある。
また、女性職員は、うつ病にり患していてストレスを抱え込みやすく、多くのことを言われると動きが悪くなるという特質を有しており、申出にそのまま応じる形で業務量を増加させた場合、かえって心理的負荷を与える可能性も否定できない状況にあった。
遺族らの主張は採用できないと判断

障害者雇用で、障害のある労働者について十分な業務量がないという課題が生じる例は少なくないです。
法定雇用率達成も大事ですが、「採用後に仕事を考える」のではなく、「仕事を設計したうえで採用する」という発想が重要です 裁判所は、この事案で、業務量が少なすぎるという申出があった場合の使用者の義務として、
・現在の業務量による心理的負荷があるか、あるとしてどの程度のものかなどを検討すること
・対応可能な範囲で申出に対応すること
・対応が不可能であれば、そのことを本人に説明すること を挙げています。
本人の希望どおりに業務量を増やすことが必ずしも適切とは限りません。
障害特性や病状を踏まえ、業務量を増やすことが適切かを検討し、その結果を本人に説明することが重要です。  
また、会社の検討内容、説明内容を記録しておくことも必要です。

障害者雇用だと何も注意できない?「くしゃみするときは手を当てて」と指導した会社に、職員は合理的配慮義務違反と主張。裁判所の判断は!前のページ

アスペルガー症候群に由来すると思われる問題行動を理由とする解雇次のページ

ピックアップ記事

  1. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  4. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  5. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    夏季休暇が「休日」なのか「休暇」なのか、が争点になった裁判例

    東京地裁H30.7.18就業規則で土日祝と年末年始を所定休日と定めて…

  2. 判例・裁判例コラム

    年俸を80万円減額する合意は有効?東京地裁の判断!

    東京地裁R7.3.31ソフトウェア会社で開発業務に従事してい…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    基本給を最低賃金相当額としつつ200時間分相当の固定残業代を支給した事案
  2. 判例・裁判例コラム

    逮捕・勾留中でも「弁明の機会」は必要? 懲戒解雇が有効とされた学校の対応とは【大…
  3. 判例・裁判例コラム

    業務に消極的な態度をとり、執務態度を改めない従業員の解雇
  4. 判例・裁判例コラム

    社外で勤務する従業員が休憩がとれていなかったとして割増賃金請求!東京地裁の判断!…
  5. 判例・裁判例コラム

    始業前出社時間の割増賃金請求。東京地裁の判断
PAGE TOP