広島高裁R4.3.29
自動車部品の製造会社で製造課長が心筋梗塞で倒れて休職。休職期間中に平社員に降格となった。
復職後しばらくして会社は社内で残業許可制を導入。他の従業員には従来通り必要に応じて残業が許可される一方で、元課長にだけは残業が許可されなかった。
元課長は、これが安全配慮義務違反にあたるとして損害賠償を請求。会社が元課長にだけ残業を許可しなかったことが違法な差別的取扱いに当たるかが争点となった。
会社は、残業をさせるか否かは人事権行使と同様に使用者の広い裁量に委ねられるべきであり、そもそも残業はできるだけ抑制すべきものだから、残業させなかったことが権利侵害に当たるという主張自体に無理があると反論。
→会社が、特定の労働者の残業を制限しても、労働者は、使用者に対し、残業の指示を要求する権利を有するわけではなく、原則として労働者の権利を侵害することにはならない。ただし、他の労働者と合理的理由なく異なる取扱いをする差別的な取扱いに当たり、それが労働者に精神的苦痛を与えるときには、労働者の権利を侵害するものと認められる。
本件で、会社は、元課長の業務を定時の後は別の社員に引き継がせていたこと、元課長の残業を禁止した理由として、元課長に健康上の問題があること及び給与適正化の要請に応じないことを挙げているにとどまること、当時の社長が退任した後は元課長にも残業が許可されていることが認められる。これらの事実に照らすと、元課長の業務が一般に残業の必要がないものであったとは認められない。
また、元課長に残業を任せられないほどの問題があったとはいえない。
よって、元課長の残業を禁止したことは不合理な差別的な取扱いにあたる。安全配慮義務違反と判断
企業側から見たポイント
残業許可制における許可・不許可も企業の完全な自由ではなく、不合理な差別的取扱いは許されません。
本件は、判決を読むと、会社が求める給与の見直しの要請に応じない従業員に不利益を与える目的で残業を不許可にしたのではないかとも思える事案であり、不合理な差別的取扱いにあたるとの評価されることになりました。
本件従業員には心筋梗塞による休職歴があり、会社は健康上の問題も残業禁止の理由としていました。しかし、健康上の理由で残業を制限するのであれば、一律・無期限に残業を不許可とするのではなく、主治医・産業医の意見などを踏まえ、「どの程度の残業制限が必要なのか」「いつまで必要なのか」を具体化し、健康確保のために必要かつ合理的な範囲での残業制限にとどめるべきだったと考えられます。





