判例・裁判例コラム

取締役が退職を申し出た従業員について「自閉症や対人恐怖症ではないかと言う人もいた」などと述べたことが違法とされた例

東京地裁R6.1.19

従業員が退職申出。最終出勤日を2日後に指定したうえで有給消化して退職すると申し出た。取締役が最終出勤日の変更を依頼したが、従業員は変更に応じず。取締役はこの従業員の最終出勤日にWeb会議において、この従業員が退職予定であることを報告し、申し出の3日後からの有給消化を指定されて「有給休暇の取得は労働者の権利である」と言われたこと、退職をもう少し待って欲しいとお願いをしたが拒まれたことなどを説明。さらに、これまでこの従業員について「退職させるべきだ、自閉症や対人恐怖症ではないか」と言う人もいたが自分が否定していた、体調が悪くなったときに仕事をセーブさせるなど配慮もしていた、それにもかかわらず労働者の権利という法律を持ち出し、恩をあだで返されたとしか思えない、と非難した

→最終出勤日のWeb会議における取締役の発言は、退職する従業員のほか複数の従業員が参加する場でされたものであり、自閉症や対人恐怖症といった精神に関わる障害の名称を示して退職する従業員に対人関係の構築等に問題があるとの意見があったことを述べつつ、2日後を最終出勤日とする退職を申し出たことなどを非難したもの。発言の時間は10分から15分に及ぶものである。このような取締役の発言は、業務上の必要に基づく叱責や他の従業員への説明という範囲を超えて、この従業員の名誉感情を著しく害する行為であり、不法行為にあたると判断

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