判例・裁判例コラム

美容師の退職後の競業避止義務違反に6万円の賠償命令!東京地裁の判断の理由とは?

東京地裁R7.3.26
表参道で美容院を営む会社が、自社店舗と他社から委託された委託店舗の2店舗を運営。両店の距離は約650メートルだった。会社は、美容師を雇用する際に、退職後1年間は、本店支店のある都道府県内で競業しないことを約束する誓約書を提出させた。また、退職時も同様の約束文言を入れた退職合意書を作成。しかし、委託店舗について他社との委託契約終了後も、美容師が自社を退職してその店舗で勤務を続けたため、競業避止義務違反として損害賠償請求訴訟を提起した
→会社に支店はなく、競業避止義務の範囲は1年間、東京都内に限定されている。代償措置がないことを考慮しても競業避止義務の合意は有効と判断。ただし、会社の再来失客率を踏まえると、美容師が退職した場合、競業をしなくても、その美容師の担当顧客のおおむね9割が来店しなくなることもあり得ると認定。退職した美容師の担当顧客135人のうち131人が来店しなくなっているが、そのうち競業により来店しなくなったのは約10人と判断。1人あたりの単価を6000円として、6万円の賠償命令。

従業員退職後の競業避止義務については以下でも解説していますので併せてご参照ください。
https://kigyobengo.com/media/useful/1454.html

本件は、元委託店舗での就業継続という点で特殊性のある事案ですが、裁判所は競業避止義務違反を認めました。
また、東京都内という広い範囲での競業避止義務を認めた点も注目されます。この点はより厳格な判断をする裁判例(例:https://nishikawa-lawyer.com/723/)もあるところです。裁判例にバラツキがありますが、使用者としてはどんな裁判官にあたっても有効性が認められるような誓約書にしておくべきでしょう。
損害賠償についての考え方も参考になりますが、なかなか厳しい金額ですね。使用者側としては、少額になりすぎることを見越して違約金を設定するということも考えられます。違約金の設定については労基法16条との関係に留意する必要があります。
拙書『労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式作成ハンドブック』では職種別に3パターンの誓約書の書式を掲載して解説していますのでお持ちの方はご参照ください。

なぜ計算に失敗した?減給上限額の計算失敗事例前のページ

仕事がないから自宅待機を指示。賃金6割でよい?福岡地裁の判断次のページ

ピックアップ記事

  1. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  2. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  3. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  4. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  5. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    営業担当者の採用失敗の手痛い失敗事例!東京地裁の結論!

    東京地裁R7.6.13法人が超富裕層向けの営業担当者を採用するために…

  2. 判例・裁判例コラム

    キャバクラ嬢は労働者?割増賃金請求できるのか?

    東京地裁R7.6.25キャバクラ嬢(キャスト)が自分は業務委…

  3. 判例・裁判例コラム

    過半数代表選出にあたり無投票者は有効投票にみなすと定めた場合の効力

    松山地裁R5.12.20大学が過半数代表者選出規程に、信任投票で投票…

  4. 判例・裁判例コラム

    PIP実施方法の問題点が指摘され、解雇が無効とされた事例

    東京地裁R6.3.18前職でデジタルマーケティングを…

  5. 判例・裁判例コラム

    出勤停止の懲戒処分通知書を従業員が返送した場合の効力

    東京地裁R6.4.24出勤停止の懲戒処分を受けた銀行職員が通知書を受…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    私傷病休職からの復職者の症状が悪化したときの対応〜休職期間がもう残っていない場合…
  2. 判例・裁判例コラム

    奈良地裁H27.2.26
  3. 判例・裁判例コラム

    第三者名義の口座への給与の支払い
  4. 判例・裁判例コラム

    聴覚障害のある職員に対する配慮として会議の筆記サポートが必要?
  5. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    判例・裁判例コラム

    就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
PAGE TOP