判例・裁判例コラム

就業規則に定められた定年延長手続をしないまま、定年後も勤務を続けさせた場合の判断事例

東京地裁R2.3.13
社会福祉法人が就業規則で「職員は満65歳になったその年度末をもって定年退職とする。退職通知は1ヵ月前に行うものとする。ただし、施設長については、法人が必要と認める場合は延長することができる。」と定めた。また、法人の定款には「施設長は理事会の議決を経て、理事長が任免する。」との規定あり。しかし、法人は、施設長が65歳になった後も延長手続をせず、70歳を超えてもそのまま施設長としての勤務を続けさせた。その後、市から施設長の定年延長手続がされていないと指摘を受けたため、理事会を開き、以降の延長を認めないことを決議して施設長の雇用を終了した。
→就業規則の条文は、施設長に関しては、後任者を直ちに見つけるのが一般的に困難であり、65歳定年を機械的に適用すると事業所の継続が不可能ないし困難になるとの事情等を踏まえ、理事会の決議による信任があれば雇用延長し、法人及び施設の業務の連続性や継続性を担保する趣旨と認められる。ところが、本件では、施設長について、65歳になった後も雇用を延長する手続をしないまま、施設長としての勤務を継続させたものであるから、65歳になった年度末で雇用契約はいったん定年により終了したことを前提として、民法629条により、黙示の更新が推定され、推定を覆す事情は存在しない。そうすると、施設長と法人の労働契約は期限の定めのないものとして存在しており、理事会決議によって労働契約が終了するということはできない。
→地位確認請求認容+2000万円超のバックペイ支払命令

参考:民法629条1項
雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。

就業規則の変更によっては変更されない労働条件の合意前のページ

リハビリ勤務の規定をおけばリハビリ勤務を認める義務がある?次のページ

ピックアップ記事

  1. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  2. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  3. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  4. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  5. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…

関連記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)

    判例・裁判例コラム

    業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)

    事件の概要従業員が、会議への参加や業務の引き継ぎ等の業務命令…

  2. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6.5.15)
  3. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.5.15)
  4. 判例・裁判例コラム

    従業員に周知された資料に基づき、降格にともなう賃金減額を行った事案

    東京地裁R5.6.9管理職としての能力不足を理由に従業員を非管理職に…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    ジョブ型雇用でポストが失われた場合に使用者に求められる解雇回避措置の内容
  2. 判例・裁判例コラム

    年功序列的賃金制度から成果主義的給与体系への就業規則変更を行った事案
  3. 判例・裁判例コラム

    中古車買取店の店長が管理監督者にあたるかが問題になった事案
  4. 判例・裁判例コラム

    試用期間中に逮捕・勾留された従業員を解雇した事案
  5. 判例・裁判例コラム

    派遣契約終了後も派遣先が見つからない無期雇用派遣社員に、賃金を切り下げたうえで派…
PAGE TOP