判例・裁判例コラム

ジョブ型雇用における能力不足解雇

東京地裁H28.6.1
海外証券会社の日本法人が営業職を解雇
→本件労働契約では、「職種:〇〇支店の〇〇部門におけるヘッジファンド・セールスパーソン」「タイトル:ディレクター等級2」と明記されている。また、会社は、給与規程において、長期雇用を前提とした賃金テーブルなどを設けておらず、基本給は「月額をもって定める」と規定するのみであり、その採用時点における労働市場の労働力の価額を前提に個別に合意により賃金額を決めている。さらに、この従業員の年収は約3600万円であり、これとは別に裁量賞与が支給されていた。そうすると、本件労働契約において、会社は、この従業員を採用後、配置転換を繰り返すなどして多様な職種に従事させながら長期的に育成していくことは予定しておらず、職種と部門を特定した労働契約であったといえる。
 そして、この従業員の収益目標に対する達成率は、平成20年が68%、21年が51%、22年が49%であった。それにもかかわらず、従業員は危機感を持って課題を改善しようとする考えがなく、むしろ、自らには改善すべき課題はなく、上司の誤った認識に基づく間違った指摘であるとの受け止めをしていたことからすれば、解雇事由は存在すると認められる。
 本件労働契約は、職種限定契約であり、長期雇用システムを前提とした従業員とは根本的に異なるところ、期待される能力を有していなかった場合に解雇回避措置(配置転換や手当の引き下げ)を取らなかったとしても、それをもって直ちに解雇の相当性を欠くことにはならない。解雇有効と判断

ジョブ型雇用における能力不足解雇前のページ

人事考課に基づく降格・賃金減額の有効性次のページ

ピックアップ記事

  1. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  2. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  3. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  4. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  5. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    熱中症で亡くなった従業員の遺族からの損害賠償請求

    福岡地裁小倉支部R6.2.13従業員がサウジアラビア出張中の屋外作業…

  2. 判例・裁判例コラム

    役員としての重大な不正を理由に従業員としての退職金を不支給にできる?

    東京地裁R6.1.29学校法人において教授等を務めていた職員が大学の…

  3. 判例・裁判例コラム

    通勤中に立ち寄ったコンビニで転倒して負傷した場合の労災請求

    東京地裁R6.6.27出勤途中で立ち寄ったコンビニ内で転倒し、腰椎捻…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    通勤中の電車内で盗撮行為を行った課長を懲戒解雇した事案(控訴審)
  2. 判例・裁判例コラム

    有期雇用の派遣社員の雇止めが有効とされた事案
  3. 判例・裁判例コラム

    復職可否の立証責任
  4. 判例・裁判例コラム

    長時間労働者に早く帰宅するように指導しても帰らない場合に会社がとるべき対応
  5. 判例・裁判例コラム

    残業許可制について厳格な運用をしていたと認められた事例
PAGE TOP