判例・裁判例コラム

解雇相当の問題がある社員について、朝礼や社内勉強会からの排除、共有サーバへのアクセス遮断等の措置をとったことが違法とされた事案

東京地裁R5.10.25
営業事務を担当する従業員について、業務の遂行に積極的でない、チームの一員として働くことができない、時間内に効率的かつ迅速な事務処理を行っていないなどの問題があり、これらの点について具体的に指摘されたにもかかわらず改善できなかったため、退職勧奨。しかし、従業員が退職に応じなかったため、オフィス来訪者の出迎え、運送業者に対する対応、配達された郵便物の管理などを業務とするオフィスアシスタントに配置換えした。そのうえで、配置換え後は、この従業員について、朝礼への参加を認めず、共有サーバーへのアクセスを遮断し、社内勉強会への参加を断るなどの対応をした。
→会社はこれらの措置の理由として、この従業員については業務として顧客対応が必要なくなったことを主張する。しかし、朝礼では顧客に関する情報以外の情報も話題に上っており、他の従業員は全員出席している中で、情報共有の場として、この従業員に出席を禁止するまでの必要性があったとまではいえない。また、共有サーバーへのアクセス遮断については、代表者も秘密漏洩の可能性を感じたものの、何か具体的な兆候があったわけではない旨供述しているのに対し、現にこの従業員が上司から命じられた翻訳業務に関して、共有サーバーで参考となる資料を探すことができないという支障が生じており、この従業員についてのみアクセスできなくする必要性は乏しかった。勉強会についても、社内のカレンダーに記載され、従業員全員に案内されているものであり、この従業員のみ参加を禁止する必要性に乏しい。これらの点を踏まえると、一連の行為は、この従業員のみを社内で孤立させ人間関係から切り離す目的で行われたと認められる。そうすると、この従業員について協調性欠如等の解雇事由に該当する事実があったことを考慮しても、これらの行為は従業員の職務環境を意図的に悪化させるものであり、不法行為を構成すると判断。

パソコンの共有フォルダに保存した就業規則の効力前のページ

退職後6か月間、半径2キロ以内での独立開業を禁止する競業避止規定の効力次のページ

ピックアップ記事

  1. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  2. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  3. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  4. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  5. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)

関連記事

  1. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    判例・裁判例コラム

    就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    事件の概要給与規程において、「業務内容の変更に伴い、その業務…

  2. 判例・裁判例コラム

    実質個人経営の居酒屋を経営する会社代表者の責任

    東京地裁R5.3.23居酒屋で勤務する33歳の従業員が突然死…

  3. 判例・裁判例コラム

    外資系企業における整理解雇について判断した事例

    東京地裁R3.12.13外資系金融機関が月給350万円の本部長を整理…

  4. 判例・裁判例コラム

    雇用契約書に明記した固定残業代の主張が認められなかった事例

    東京地裁R5.1.26雇用契約書で「基本給16万円、職務手当18万円…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    試用期間中に逮捕・勾留された従業員を解雇した事案
  2. 判例・裁判例コラム

    会社からタイムカード打刻を義務付けられている営業部長の管理監督者性
  3. 判例・裁判例コラム

    覚醒剤使用で懲戒解雇された従業員の退職金不支給についての判断事例
  4. 判例・裁判例コラム

    懲戒解雇を社内で公示したことが名誉毀損にあたる?
  5. 判例・裁判例コラム

    役付手当を固定残業代と位置付ける賃金規程の効力について判示した事例
PAGE TOP