判例・裁判例コラム

退職後6か月間、半径2キロ以内での独立開業を禁止する競業避止規定の効力

大阪地裁R7.1.27
放課後デイサービスを提供する会社が就業規則で「従業員は、在職中はもとより、退職後も6ヵ月間、当法人の許可を得ることなく、当法人から半径2キロ以内の競業関係にある会社等に再就職し、または6ヵ月間は競業する事業を自ら営んではならない」と定めた。
退職者が競業で独立して半径2キロ以内で事業を開設したため、会社は退職者に対して損害賠償を請求。
→会社の事業所は本店所在地のほか約10か所に及ぶものであり、「当法人から半径2キロ以内」とは、このすべての事業所を基点として半径2キロメートル以内の場所での開業を禁ずるものと解せざるを得ない。
しかし、本件会社のような業態からすると、従業員が現に関与した事業所であれば、これを基点として一定期間一定の距離内で退職後の競業を禁ずる合理性はあるといえるが、およそ関係のない事業所も含まれる本件規定は、過度に職業選択の自由を抑制する。また、そのような規定の抑止的効果からすると、範囲を限定してその範囲では有効とするべきでもない。
就業規則の規定は公序良俗に反し無効と判断

退職後の競業避止義務については以下の記事でも解説しています。あわせてご参照ください。
https://kigyobengo.com/media/useful/1454.html

企業側から見たポイント
競業避止義務を課す場面で、地理的範囲を限定することがどの程度求められるかは、競業避止義務を設定する目的によって異なります。
例えば、経営幹部の転職によって経営上の秘密が競合他社に漏れることを防ぐ目的で、退職後の競合他社への転職を制限する場面では、裁判例でも、地理的範囲の限定が必ずしも厳格に求められないことがあります。
これに対し、本件のように、一定の商圏を前提とする事業において顧客の引き抜きを防止することを目的として競業避止義務を設定する場合には、その地理的範囲を引き抜き防止のために必要な範囲に限定することが重要です。
ポストの裁判例も、判決は、従業員が実際に関与した事業所を基点として一定期間・一定距離の競業を禁止することには合理性があるとする一方、本人が全く関与していない事業所まで含めて競業を禁止することは、職業選択の自由を過度に制約すると判断しています。また、広範すぎる規定をおいた場合の抑止的効果からすると、限定解釈をしてその範囲で有効とすべきでもないとしました。
ポストのような、来店型店舗における顧客引き抜き防止を目的に競業避止義務を設定する場合、「会社の経営する各事業所から半径○km」とするのではなく、「本人が勤務し、または営業・顧客対応等を担当した事業所から半径○km」とするなど、実際に引き抜き防止が必要な範囲を踏まえて地理的範囲を設定することが適切だと考えられます。
退職後の競業避止義務の設定についての書式も、競業避止義務設定の目的にあわせた準備が必要です。筆者の「労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式作成ハンドブック」では、目的別に3パターンの競業避止義務の誓約書の書式例を掲載して解説しています。お持ちの方はあわせてご参照ください。

就業規則変更による勤務日変更の効力前のページ

1000円の着服をした運転手の退職手当1200万円超を全額不支給にした事案次のページ

ピックアップ記事

  1. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  2. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  3. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  4. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  5. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    調剤薬局で患者の感情を害する言動をする薬剤師を解雇した事案

    大阪地裁R6.2.22調剤薬局が経験者の薬剤師を採用。履歴書には「前…

  2. 判例・裁判例コラム

    セミナー「ジョブ型雇用の就業規則の作り方とジョブ型雇用の裁判例」開催のお知らせ

    企業がジョブ型雇用に取り組む場合、どのような就業規則を整備すればよい…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    復職のために会社が指定した医師作成の証明書を要すると定める就業規則の効力について…
  2. 判例・裁判例コラム

    役員としての重大な不正を理由に従業員としての退職金を不支給にできる?
  3. 判例・裁判例コラム

    在宅許可取消後もパワハラ、メンタル不調を主張して出社しない従業員を解雇!大阪地裁…
  4. 判例・裁判例コラム

    事業者は従業員に対する労災支給決定の取り消しを求める訴訟を起こすことができるか?…
  5. 判例・裁判例コラム

    私傷病休職について独自の復職基準を定める規定の効力
PAGE TOP