判例・裁判例コラム

外資系企業における整理解雇について判断した事例

東京地裁R3.12.13
外資系金融機関が月給350万円の本部長を整理解雇。会社は、このような解雇が無効なら国際企業の日本撤退を招くと主張。
→国際企業の人事労務管理と整合する合理的な労働契約や就業規則を整備し、解雇の客観的な資料を保存することで対処可能であり、上記主張は採用できないと判示。

裁判所は、本件の解雇無効の判断について、①労働契約において、本部長の担う職務や果たすべき職責、職務の遂行や職責に必要な能力、期待される評価等を限定する旨の合意があったと認めるに足りる証拠が提出されていないこと
②就業規則の内容が、整理解雇に当たって、配置転換や職位の降格等を検討することを予定したものとなっていること
③会社が、本件解雇に至るまで、本部長に対し、勤務評価において職務能力や勤務成績の不良を指摘せず、高額の賞与を支給し続けてきたこと
④本部の収益目標や会社代表者による忠告の具体的な時期・内容を認めるに足りる証拠が提出されていないこと等
を踏まえたものである旨判示したうえで、会社が指摘する懸念については、「使用者において、国際企業における人事労務管理と整合する合理的な内容の労働契約や就業規則を締結又は制定するようにしたり、解雇の有効性を基礎づける事実を裏付ける客観的な資料を適切に作成し保存したりすること等によって対処することができるものであり、会社の主張を採用することはできないとしています。

なお、この点に関連して、東大の荒木先生の労働法の教科書の第4版では、以下の記述がされていました。
「いわゆるジョブ型雇用、すなわち、職務内容を特定し、求められる能力について明確に説明して雇用された転職市場における労働者について、能力不足等が判明した場合の解雇権濫用法理の判断は、従来の日本企業に一般的な職務内容等を特定せず、能力開発を企業が引き受けていると見られてきたいわゆるメンバーシップ型雇用の場合に比して緩和されうる。しかし、そのような明確な説明を行うことなく、また、就業規則等で従来の日本企業と同様の改善の見込みがないと認められる場合に限って解雇しうるとしていた場合には、従来どおりに厳格な判断がなされることになる」(荒木尚志「労働法」第4版)。
最新版の第5版では上記部分の記述がさらに修正・補充されていますが、第5版の記述も上記と同趣旨と読み取れます。

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