判例・裁判例コラム

高額な歩合給制度の問題点

東京地裁R7.3.21
賃貸住宅建築を事業とする会社で、支店長が、マンション新築を請け負った顧客の建築資金調達のために、部下を通じ、銀行に対して虚偽の収支計画を説明して、融資を実行させるなどの不正行為。不正発覚後に会社は銀行に事実を告げて、融資の再審査を受けたところ、融資枠が減額され、そのため、顧客の建築代金を減額することになり、赤字工事となった。会社は支店長を懲戒して課長に降格させたが、元支店長が会社に対して訴訟を提起。そこで、会社からもこの元支店長の不正行為により赤字工事となり損害が発生したとして1387万円の損害賠償を請求。
→元支店長の行為は、不正な融資付けであり、行き過ぎた営業行為として非難されるべきものであることは疑いない。しかし、会社をあざむき、会社の利益を犠牲にして自己の利益を図るものとまでは評価できない。また、会社は、元支店長に対し、支店の売上目標を設定し、進捗状況について毎日報告を求め、支店長を集めた会議においては目標達成に向けて叱咤激励する一方、目標を達成した場合には、基本給を大幅に上回る歩合給(最大月137万9136円)や賞与を支払っていた。営業職の従業員に契約獲得及び融資確定に向けた強いインセンティブを課し、これによって利益を上げていたと認められる。このようなシステムを構築した以上、目標を達成して社内での評価を上げる、あるいは歩合給や賞与を得る目的で不正な行為をする従業員が現れることは十分に想定される。会社が元支店長に懲戒処分といった不利益処分を課すことは格別、会社が被った損害について賠償責任を負担させるのは信義則上相当ではない。賠償請求認めず。

極端な歩合給はコンプライアンスをゆがめることになります。
ポストの事案で、裁判所も、会社が、営業職の従業員に契約獲得及び融資確定に向けた強いインセンティブを課し、これによって利益を上げるシステムを構築した以上、歩合給や賞与を得る目的で不正な行為をする従業員が現れることは十分に想定されることであるとして、不正のあった元支店長に対する損害賠償請求を認めませんでした。
故意による不正行為に対する損害賠償請求を認めなかったこのような結論には疑問もあるところですが、極端な歩合給がコンプライアンスにとってマイナスであることは十分留意すべきだと思います。

シフト制従業員とのシフト決定のやりとりの失敗が会社敗訴の原因に!東京地裁の判断前のページ

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