判例・裁判例コラム

基本給を最低賃金相当額としつつ200時間分相当の固定残業代を支給した事案

大阪地裁R4.11.24

運送会社が「時間外割増」という名称の手当を設け、雇用契約書や賃金規程において、これを基準外賃金と位置付けて、①この手当が割増賃金を意味する旨や②法定の割増賃金がこの手当を上回る場合は差額を支払う旨を定めた
→この「時間外割増」の手当は等級評価と売上評価の合計により計算されているが、これらはいずれも労働時間とは関連性の認められない要素であり、所定労働時間内の労働によっても生じるものであることからすると、時間外労働等に対する対価だけではなく、通常の労働時間の賃金を含むものであることをうかがわせる。そして、この手当は、200時間前後の時間外労働に相当する金額であり、実際の時間で計算した残業代を大幅に上回る一方、基本給は最低賃金額であることからすると、この「時間外割増」の手当には業務の成果に対する対価などの通常の労働時間の賃金が含まれていることがうかがわれる。加えて、求人票には基本給が24万8000円から36万円の間と表示され、手当についての記載はなく、その記載によれば、基本給に残業代に相当する部分を含んでいない旨を表示していたとみるのが相当である。以上のとおり、この「時間外割増」の手当は、雇用契約書や賃金規程において時間外労働等に対する対価という位置付けを明示され、一応これに沿った説明がされているものの、その算出方法は、労働時間とは関連性のない、所定労働時間内の労働によっても生じる要素に基づいて算出されたものである上、実際に算出された手当の金額は、実際の勤務状況を基に計算される残業代を大幅に上回る一方で基本給が最低賃金額であることからすると、この手当には通常の労働時間の賃金が含まれていることが強くうかがわれる。また、労働契約締結に至る経緯等をみても、この「時間外割増」の手当が通常の労働時間の賃金の一部であるかのような表示がされて、これが打ち消されていたとみることができない。よって、「時間外割増」として支給されていた手当は、有効な固定残業代とはいえないと判断

会社が傷病手当金の申請に協力しなかったことを理由とする損害賠償請求前のページ

有期雇用労働者と無期雇用労働者の基本給格差が違法とされた事例次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  3. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  4. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  5. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    雇用契約書に明記した固定残業代の主張が認められなかった事例

    東京地裁R5.1.26雇用契約書で「基本給16万円、職務手当18万円…

  2. 判例・裁判例コラム

    ハラスメント調査への不服を経営陣らに送り続ける社員の解雇

    東京地裁R6.6.27 従業員が人事部に対してハラスメントの被害を申…

  3. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大阪地裁R6.3.27)
  4. 判例・裁判例コラム

    1年以上服薬せずに日常生活を送っていた休職者の復職可否判断

    名古屋地裁R3.8.23躁うつ病(双極性障害)で休職していた休職者が…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    営業担当者について退職後6か月間に限って同業他社への就職を禁止する誓約書の効力
  2. 判例・裁判例コラム

    残業許可制について厳格な運用をしていたと認められた事例
  3. 判例・裁判例コラム

    労災認定されて休業中の従業員の解雇
  4. 判例・裁判例コラム

    精神疾患からの復職にあたり、配転命令を拒否する従業員への対応事例
  5. 判例・裁判例コラム

    適応障害による休職からの復職にあたり賃金を減額した事案
PAGE TOP