判例・裁判例コラム

有期雇用労働者と無期雇用労働者の基本給格差が違法とされた事例

京都地裁R7.2.13

私立高校に有期雇用されていた教員が、無期雇用の教員との基本給の格差が違法であると主張
→無期雇用教員の給料は、満年齢に対応する年齢給に職位・職階級を加算した額とされ、年齢給は毎年昇給。これに対し、有期雇用講師は、25歳までは年齢に応じて初年度の賃金額を区別しているが、25歳以上になると年齢に関係なく勤務年数に応じた賃金額が定められており、5年を超えると昇給しない。そして、給与規程には、年齢給とは別に支給される賃金として、職位・職階給、管理職手当、入試作問手当、担任手当、職責手当が定められている。
 これらの事実からすれば、無期雇用教員に支給される年齢給は、年齢によって定められる部分に加え、職務遂行能力に応じた職能給及び継続的な勤務等に対する功労報酬等の複合的な性質を有する。これに対し、有期雇用講師に支給される賃金は、年齢によって定められる性質は小さく、本来的に短期雇用であることを前提に、5年を限度として職務遂行能力に応じた職能給及び勤続年数に応じて額が定められる勤続給としての性質を有する。そして、これらとは別に職位・職階給や管理職手当、職責手当が支給されていることからすれば、無期雇用教員の年齢給及び有期雇用講師に支給される賃金に、担当業務の相違によって左右される要素は乏しい。
 無期雇用教員の年齢給の性質及び支給目的に照らせば、少なくとも5年を超えて勤務する有期雇用講師については、年齢によって定められる部分、職務遂行能力に応じた職能給及び継続的な勤務等に対する功労報酬を支払うという性質及び支給目的は妥当する。訴訟を起こした教員は有期雇用講師として5年を超えて勤務しており、管理職ではない無期雇用教員との間には、業務の内容及び業務に伴う責任の程度、職務内容及び配置の変更の範囲において、この高校において設けられているような賃金差を設けるほどの違いは認められない。就業規則及び給与規程により、有期雇用講師であった原告と無期雇用教員との間に賃金の差を設けることはパート・有期法8条に反し、不法行為を構成すると判断

基本給を最低賃金相当額としつつ200時間分相当の固定残業代を支給した事案前のページ

無期転換後の賃金格差次のページ

ピックアップ記事

  1. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  2. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  3. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  4. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  5. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    解雇事由調査のための休職命令と賃金支払義務

    東京地裁R3.5.28会社が解雇理由の調査のために従業員に休…

  2. 判例・裁判例コラム

    自宅待機状態を続けさせたことが違法な退職勧奨であるとされた事例

    東京地裁R6.4.24嫌いな人物はとことん追い詰める、高圧的な態度で…

  3. 判例・裁判例コラム

    懲戒解雇を社内で公示したことが名誉毀損にあたる?

    東京地裁R5.5.24機密情報を漏洩した経理部長代理を懲戒解雇。会社…

  4. 判例・裁判例コラム

    給与振込担当者が自分の給与を勝手に増額させていたとして懲戒解雇された事案

    東京地裁R6.2.21一般社団法人で職員の給与の振込手続を担当してい…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    試用期間中に2回の事故を起こし、ミスも改善されない従業員を実働10日で解雇した事…
  2. 判例・裁判例コラム

    講師の賃金について「1授業(50分)時間当たり:2310円」と定め、授業準備やテ…
  3. 判例・裁判例コラム

    過半数代表選出にあたり無投票者は有効投票にみなすと定めた場合の効力
  4. 判例・裁判例コラム

    退職後6か月間、半径2キロ以内での独立開業を禁止する競業避止規定の効力
  5. 判例・裁判例コラム

    就業時間中にコンビニ駐車場で自社車両に向かって放尿し、目撃者から苦情があった運転…
PAGE TOP