東京地裁R7.3.31
ソフトウェア会社で開発業務に従事していた従業員が年俸の減額に合意。880万円から800万円に減額された。しかし、その後の訴訟で減額は無効と主張。減額分の支払いを求めた。
→当時、会社は退職者が設立した競合他社による引き抜きや情報流出を警戒して、この競合他社から連絡等を受けた際は会社に報告するように指示していた。しかし、従業員は、会社の指示に従わず、報告なく、この競合他社と会食したうえ、同僚を誘ったことから、これを不安視した会社が従業員の責任範囲を半分以下に減少させている。また、従業員も自己査定をもとに相対評価によって年俸額が決定されることを認識していたところ、責任範囲の半減が上記報告義務違反によるものと認識して自身でも厳しい自己査定を提出し、年俸減額後に800万円の契約書に署名押印して合意した後も、会社代表者に「このたびの査定について、多大なご配慮をいただき、誠にありがとうございました」とメールしている。このように減額は報告指示違反を原因とする責任範囲の縮小や査定結果の低下によるものであり、減額幅も不相当とまではいえない。従業員は減額理由を理解したうえで合意しており、自由な意思に基づいて合意したと認めるに足りる合理的理由がある。減額合意は有効と判断。
「自由な意思」による減額を認めた貴重な例の1つです。
労働者の同意を得て賃金を減額することは労働契約法上可能です。しかし、最高裁判例により、労働者の同意書があっても、自由な意思に基づき同意したと認められるような合理的理由がなければ同意ありとは認められません(山梨県民信用組合事件最高裁判決)。この点について、しっかりわかりやすい説明をすれば大丈夫と考えがちですが、そう簡単な話でなく、山梨県民信用組合事件最高裁判決以降で、自由な意思を裁判所が認めた例はごくわずか、認めずに使用者が敗訴した例が大半です。本件は減額が認められた貴重な例の1つとしてとりあげました。「自由な意思」による減額を認められるためには、説明の仕方うんぬんの前に、そもそも前提として、労働者から見て賃金減額に応じなければならないような客観的事情が必要であることがわかります。





