東京地裁R7.6.6
会社がホテル警備業務の担当スタッフを日給2万4000円で募集し、雇用期間を7月から約2か月とする雇用契約書を作成した。勤務日時は「シフトによる(シフト表は勤務開始日までに提示)」と定め、そのうえで、採用したスタッフに対し、期間中の勤務できない日および勤務地の希望を記載して提出するよう求めた。
これに対し、女性スタッフの1人は、勤務できない日を「日曜日のみ」と記載して提出した。そこで会社は、このスタッフに、7月分のシフトとして、日曜日を避けた7日出勤のシフトをメールで提示した。ところがスタッフは、その日のうちに「スケジュール変更してください!!!!!」との件名のメールを送信し、会社が作成したシフト内容では納得できないと主張。希望するシフトは「毎週3日、曜日は月水金」であり、希望曜日に入れないシフトの調整には今後応じないとして、7月のシフトを組みなおしたうえで当日中に返信するよう求めた。
会社の執行役員は、このスタッフに電話をかけ、すべての期間で週3日のシフトを提示することは難しいと説明した。しかしスタッフは、週3日勤務を強く要求した。これに対し執行役員は、「そのような条件を付けてくる人はいない」「電話も番号非通知でかけてくるので、このままでは信頼関係がなく働いてもらうことは困難である」と述べた。これに対しスタッフは「解雇という趣旨か」と確認したが、執行役員は回答しなかった。
その後、執行役員は再度メールで、スタッフが希望するシフトをすべて実現することは難しい旨を伝えるとともに、改めて8月のシフト希望を問い合わせるなどした。しかしスタッフは、会社に対し「働けなかった日の賃金補償」を求めて紛争化。一度も働かないまま、「会社が就労を拒否したため働けなかった」として、民法536条2項に基づき、本来シフトに入れたと主張する日の賃金支払いを求めて訴訟を提起した。
→執行役員は解雇を明言しておらず、8月のシフト調整を試みるなど、スタッフとの労働契約が継続していることを前提とした対応をとっているため、解雇の意思表示があったとはいえない。
また、本件労働契約では「シフト表は勤務開始日までに会社が提示する」と定められていることから、会社がスタッフにシフト表を提示した時点で労働日が確定すると認められる。その後、スタッフは会社から提示された7月シフトの見直しを求めているが、この申入れによって、労働日が未確定の状態に戻るとはいえない。労働日および就労場所は労働契約の内容であり(労働契約法8条)、これを変更するためには当事者双方の合意が必要で、一方当事者が一方的に変更することはできない。
そして執行役員は、電話で「信頼関係がないので働いてもらうことは困難である」と述べており、これは会社が確定済みの7月の労働日の就労を拒否したものと評価できる。以上によれば、スタッフが7月に就労しなかったのは、会社の就労拒否によるものであり、会社に責めに帰すべき事由がある。会社に対し、確定していた7日分の賃金の支払命令。
シフト制雇用のリスクが浮き彫りになった判断です。 本件はスタッフ側の対応にも問題があるように感じますが、会社はスタッフが働かなかった日についても、賃金支払いを命じられました。
会社の失敗の原因として、一度確定したシフトは双方の合意がない限り変更できないという労働契約のルールを認識できておらず、またいつシフトが確定するのかについての認識もあいまいだったことがあるように感じました。
例えば、①会社が提示したシフトを〇日以内に労働者が承認しなかった場合はそのシフトは採用されないとか、あるいは➁会社が提示したシフトに対して労働者が〇日以内に異議を述べなかった場合にシフトが確定するといったシフトの決定方法を雇用契約において採用していれば、このようなトラブルは避けられた可能性があるように思います。しかし、本件では雇用契約書の「シフト表は勤務開始日までに会社が提示する」という記載から、会社がシフトを提示した段階でシフトが確定すると判断された結果、このような判決になりました。
厚生労働省は、令和4年に公表した「シフト制により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」の中で、 労働契約に定めることが考えられる事項として、シフト作成・変更の手続を挙げ、「 これらのルールについては、就業規則に定める等して、一律に設けることも考えられます。」としています。





