東京地裁R7.7.10
ホテルチェーン運営会社と業務委託契約を結び、ホテルの「支配人・副支配人」として、住み込みで運営を行っていた夫婦が「実態は労働者だ」として、解雇無効の主張を行い、また未払い割増賃金を請求した →
(1)仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無について
夫婦が個別の業務を拒否することは想定されていないが、これは委託契約に基づく受託業務を履行する義務があることによるもの。運営会社と夫婦の間に指揮監督関係があることを示すものとはいえない。
(2)業務遂行上の指揮監督の有無
夫婦には会社が定めたマニュアルの遵守が義務付けられているが、これは、委託契約の目的に基づくもの。使用者の業務遂行上の指揮監督とは異なる。
(3)時間的・場所的拘束性の有無
ホテルの所在地に住民票を異動してホテルに居住しながらホテルの運営業務に従事するものとされ、夫婦には一定の時間的・場所的拘束が生じていた。しかし、委託契約の内容又はホテルの運営業務という業務の性質から生ずるものであり、労働者に対する指揮監督関係を基礎付けるものということはできない。
(4)労務提供の代替性の有無
契約上、再委託は禁止されていたが、必要があれば代行要員を依頼して委託業務を代行してもらうことが可能であり、実際、相当数の店舗において代行要員が活用されていた。また、自分でアルバイトを雇用してホテルの運営業務を担当させることもできた。これらの点からすると、労務提供の代替性がないということはできない。
(5)報酬の労務対償性
業務委託料の内、アルバイト補助金を除く部分は、ホテルの客室数と契約年数で決定されており、一定時間の労務提供の対価として支払われるものとは認めがたい。
(6)事業者性の有無
ホテルの建物は夫婦ではなく運営会社が賃借しており、これは夫婦の労働者性をうかがわせる事情といえる。
(7)専属性の程度
夫婦が他で業務に従事することは困難であるといえ、専属性が認められる。
(8)結論
運営会社からの業務指示等に対して諾否の自由はないが、これは委託契約に基づいて受託業務を履行する義務があることによるものである。また、マニュアルを遵守するなどの義務を負うこと、運営会社の社員からホテルの運営に関する指導助言を受けることなどは、委託契約の目的に基づくものであり、労働者に対する業務遂行上の指揮監督関係を基礎付けるものとはいえない。さらに、夫婦が一定の時間的・場所的拘束を受けたことは認められるものの、これは業務の性質から生ずるものである上、報酬の労務対償性を認めることも困難である。これらの諸点に照らせば、(6)(7)の点を考慮しても、夫婦は労働者に該当せず、労働基準法上の割増賃金を請求できないと判断





