判例・裁判例コラム

メンタルヘルス不調からの復職可否判断。服薬中でも運転業務に復帰可能?大阪地裁の判断!

大阪地裁R7.9.25
運送業で運転業務に従事していた従業員が適応障害を発症。1年以上休職していたが、休職期間満了直前になって復職可能とする主治医の診断書を提出。復職を求めた。会社は産業医に意見を聴いたうえで、復職を認めない判断をし、休職期間満了による自然退職扱いを連絡。従業員はこれが不当であるとして訴訟を提起した。
→入社時の労働条件通知書において、従事すべき業務は「運転業務」、職種区分は「運転職」であると明記されていたこと、就業規則でも管理・事務を行う「総合職」と、運転・運行管理を行う「運転職」が明確に区別されていること、従業員は入社以降専ら運転業務に従事していたことからすれば、本件雇用契約において、従業員の職種は「運転職」に限定されていたと認められる。
そうすると、従業員が復職可能であるかが問われるのは運転業務についてということになる。
そして、従業員は休職期間満了時において、複数の薬剤を処方されていたところ、ロゼレム錠、ルネスタ、トラゾドン塩酸塩錠については、その添付文書において、服用した場合には自動車の運転などに従事させないよう注意すべき旨が記載されていること、従業員は休職期間満了後も継続してこれらを服用していたこと、会社は法令により、一般貨物自動車運送事業者として、疾病等の理由により安全な運転をすることができないおそれのある乗務員を事業用自動車に乗務させることを禁じられていること(貨物自動車運送事業輸送安全規則3条6項)などからすれば、復職面談を行った産業医が述べるように、休職期間の満了時点において運転業務に従事することが可能であったとは認められない。復職可能であったとする従業員の主張には理由がないと判断。

職業運転手の復職可否判断において参考になる判断が示されています。
この裁判例も指摘していますが、貨物自動車運送事業輸送安全規則において、「貨物自動車運送事業者は、乗務員等の健康状態の把握に努め、疾病、疲労、睡眠不足その他の理由により安全に運行の業務を遂行し、又はその補助をすることができないおそれがある乗務員等を事業用自動車の運行の業務に従事させてはならない。」と定められています。
これを踏まえると、職種が運転職に限定されている従業員の復職可否判断において、自動車の運転に危険を及ぼすおそれのある薬剤を服薬中の場合は、主治医への照会、産業医からの意見聴取などのプロセスを経たうえで、復職不可と判断せざるをえないことが通常だと思います。 本件の裁判所もそのように判断しました。
本件で、産業医は、ロゼレム錠、ルネスタ、トラゾドン塩酸塩錠に関しては自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意することとの使用上の注意があるため、現時点では運転業務は不可と考える旨の意見を述べていました。

本件では、判決を読む限り、仕事のミスが原因で発症した(仕事のミスがなければ発症しなかった)という労働者の主張はその通りではないかと感じましたが、それだけで業務起因性が認められるわけではありません。 厚生労働省の労災認定基準によれば、仕事の上のミス等で業務起因性が認められるのは、以下のような事例です。
・ 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミス(倒 産を招きかねないミス、大幅な業績悪化に繋がるミス、会 社の信用を著しく傷つけるミス等)をし、事後対応にも当たった
・ 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスとま ではいえないが、その事後対応に多大な労力を費やした (懲戒処分、降格、月給額を超える賠償責任の追及等重 いペナルティを課された、職場の人間関係が著しく悪化し た等を含む)
・重大な事故、事件(倒産を招きかねない事態や大幅な 業績悪化に繋がる事態、会社の信用を著しく傷つける事 態、他人を死亡させ、又は生死に関わるケガを負わせる 事態等)の責任(監督責任等)を問われ、事後対応に多大 な労力を費やした
・ 重大とまではいえない事故、事件ではあるが、その責 任(監督責任等)を問われ、立場や職責を大きく上回る事 後対応を行った(減給、降格等の重いペナルティが課された等を含む)
本件ではいずれにも当たらないことが明らかであり、これらの基準に照らしても、業務起因性を否定した判断は妥当といえます。

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