判例・裁判例コラム

能力主義的賃金制度導入の失敗例

長野地裁H22.3.26
病院が職員の就業規則を改定して賃金制度を変更した。これにより賃金が下がった職員が提訴
→年功序列の賃金制度から個人の能力・実績をより重視した能力給を導入すること等を目的とするものであり、改定の必要性は否定できない。
 しかし、①導入された職能給表を見ると、旧賃金制度と同等の給与を得るためにはかなり速いペースで昇格することが必要でそのような昇格ができるものは少数であると想定できる。新賃金制度は、能力制度の導入等を目的に導入されたものであり、人件費抑制を目的としているわけではないから、このような賃金面での減額が生じることは適切とはいえない。
 また、②導入にあたっての格付けが年齢によってのみ行われたため、入所半年の未経験の職員が10年以上の勤務経験のある職員よりも上位に格付けられるなどしており、合理性がない。
 さらに、③考課制度も当初は全考課項目が最高評価でも総合判定が最高評価にならないという不備のあるものであり、検証不十分なまま導入されたと考えざるを得ない。
 そして、④実際の考課も、A評価を取る見込みの職員が多くなってしまうためにこれを減らす目的で当初の目標を変更させるなどしており、あいまいな点がある。
 そのうえ、⑤代償措置としての調整手当の支給は3年間にとどまるなど、不利益の程度に比して不十分。
 ⑥労働組合や従業員に対する説明も不十分。従業員への説明や内容の検証を不十分なものににとどめてまで新賃金制度を導入しなければならないほどの緊急の必要性があったとはいえない。
変更の合理性なく、新賃金制度を職員に適用することはできないと判断

就業規則変更による賃金制度変更については以下で解説していますのでご参照ください。
https://kigyobengo.com/media/useful/595.html

東京高裁でも会社敗訴の判決が維持され、確定しました。これは例えばジョブ型の賃金制度への移行時にも留意すべき裁判例です。
裁判所は、①のところで、要するに、旧賃金制度と同等の昇給ペースがおおむね維持されることを求めており、これが失われることは重大な不利益なんだと考えていることがうかがえます。
このような考え方を踏まえると、現在一定のペースでの昇給が予定された雇用契約になっている場合、これをジョブ型の賃金制度に変更する場合でも、経営難などによる高度の必要性がない限り、同等の昇給ペースがおおむね維持されることが要求されると思われます。
西川としては、そのような考え方はやや硬直的すぎるように思いますが、どのように乗り越えるかを検討しておく必要があります。

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