判例・裁判例コラム

主治医は復職可能・指定医は回復は一時的で復職不可と診断した場合の復職可否判断事例

東京地裁R6.9.25

適応障害で休職していた従業員について主治医は復職可能と診断。しかし、使用者の指定医は「不眠症のため眠剤を内服していること、抗うつ薬を不安時にのみ内服しており、本来の内服の用法と異なること、気分が反応的に回復しており、一時的な回復の可能性が考えられることから、このまま仕事を続けるのは難しい」と診断。これを受けて使用者は復職を認めず、休職期間満了により雇用を終了した

→従業員は不眠の症状も軽減し、ほとんど毎日眠れていた旨を述べているところ、主治医の診療録上も、当初は様々な症状の訴えがみられるが、その後改善の傾向がみられ、具体的な症状の訴えがみられなくなっている。これに対して、使用者は薬を飲まなくてもよい状態に回復していたとはいえないなどと主張するが、従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していれば休職事由は消滅したといえ、それ以上に、症状が消失することや通院・服薬の必要がなくなることまで求められるわけではない。また、指定医は一時的な回復の可能性が考えられるとして就労が困難である旨を診断しているが、指定医の診療レポートには直近8か月の症状の経過は特に記載されておらず、指定医が症状の経過を詳細に聴取したとはうかがわれないことなどを踏まえると、一時的な回復の可能性というのは抽象的な懸念を指摘するものとみるべきであって、この診断をもって復職可能な程度にまで回復していたことを否定するのは相当でない。休職事由は消滅しており、労働契約は終了しないと判断

無期転換後の賃金格差前のページ

レジから2000円をとった美容師の普通解雇次のページ

ピックアップ記事

  1. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  2. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  3. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  4. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  5. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    業務命令に応じない従業員への対応事例

    東京地裁R5.11.15従業員が、会議への参加や業務の引き継ぎ等の業…

  2. 判例・裁判例コラム

    職場内の人間関係を理由に休職者の復職を認めないことは可能?

    大阪高裁H27.2.26双極性障害による休職からの復職を認められなか…

  3. 判例・裁判例コラム

    セクハラ被害の訴えと休職期間の満了

    東京地裁R6.11.14食品販売会社が精神疾患で休職していた…

  4. 判例・裁判例コラム

    マクドナルドの店長の管理監督者性

    マクドナルドの店長の管理監督者性東京地裁H20.1.28店長…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    支払いすぎた賞与を翌年の賞与から控除できる?
  2. 判例・裁判例コラム

    従業員に周知された資料に基づき、降格にともなう賃金減額を行った事案
  3. 判例・裁判例コラム

    郵便局職員の制服への着替え時間は労働時間?
  4. 判例・裁判例コラム

    給与担当者が情報を他の職員に漏らしたことに対する叱責がパワハラにあたるとされた事…
  5. 判例・裁判例コラム

    過半数代表選出にあたり無投票者は有効投票にみなすと定めた場合の効力
PAGE TOP