判例・裁判例コラム

雑に作成された退職時の秘密保持誓約書が無効と判断された例

東京地裁R6.2.19

退職する従業員に、「退職後3年間は、貴社所属時に業務上知った情報(受領した名刺情報、貴社経営関係情報等)について、一切口外しません。」と記載された誓約書を提出させた
→従業員の退職後の秘密保持義務を定める特約は、これに定められた営業秘密等の範囲が不明確で過度に広範であったり、そもそも営業秘密等として保護する必要がないような場合、当該特約は、従業員の職業選択の自由や営業の自由を不当に侵害するものとなり得る。したがって、上記のような秘密保持特約は、対象とする営業秘密等の特定性や範囲、秘密として保護する価値の有無及び程度、退職者の従前の地位等の事情を総合的に考慮し、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合には、公序良俗に違反し無効となる。
 この点、本件誓約書では秘密保持の対象となる情報につき、「貴社所属時に業務上知った情報(受領した名刺情報、貴社経営関係情報等)」とされている。
 しかし、「貴社所属時に業務上知った情報」というだけでは対象となる営業秘密等が具体的に特定されているとはいえず、その範囲も事実上無限定といってよいから、その範囲は過度に広範といえる。
 また、例示のうち「貴社経営関係情報等」も、その文言が抽象的である上、在職時の従業員の地位等と結びつけられておらず、かつ、秘密として保護する必要性の有無ないし程度にかかわりなく対象となり得る点で、過度に広範なものといえる。
 以上の各事情を総合的に考慮すれば、本件誓約書における秘密保持に関する規定は、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える。公序良俗に違反し無効と判断。

休職期間満了による退職を6か月経過してから通知した事例前のページ

PIP実施方法の問題点が指摘され、解雇が無効とされた事例次のページ

ピックアップ記事

  1. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  2. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  3. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  4. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  5. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    1年以上服薬せずに日常生活を送っていた休職者の復職可否判断

    名古屋地裁R3.8.23躁うつ病(双極性障害)で休職していた休職者が…

  2. 判例・裁判例コラム

    日本語能力の不足を理由に外国人大卒者を解雇した事例

    東京地裁R5.12.1日本企業がペルー出身の大卒者を採用した…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    現勤務先の利益より、元勤務先への義理を優先してよい?
  2. 判例・裁判例コラム

    労働者の適性を判断する試用目的での有期雇用契約
  3. 判例・裁判例コラム

    パソコンの共有フォルダに保存した就業規則の効力
  4. 判例・裁判例コラム

    不当な復職拒否をしてしまった後、これを撤回するために会社がとるべき行動とは?
  5. 判例・裁判例コラム

    中古車買取店の店長が管理監督者にあたるかが問題になった事案
PAGE TOP