判例・裁判例コラム

支払いすぎた賞与を翌年の賞与から控除できる?

東京地裁R5.12.28
外資系の医薬品販売会社が、従業員に対し、9月に標準賞与の50%を支給した上で、翌年3月の賞与において最終的に算出された賞与支給額から9月に支給した金額を差し引いて支給し、仮に最終的な賞与支給額が9月に支給した金額を下回った場合は、翌年3月の賞与は支給せず、さらに翌年9月の支給額から減額することにしていた。これに基づき、会社は従業員に対し、令和2年9月分賞与約22万円が過払になっているとして令和3年3月分賞与を支払わず、令和3年9月分賞与から約22万円を控除して支払った。
→9月賞与が仮払いであり翌年3月賞与によって調整する点については、賞与額が確定していないことから賞与額の決定ないし支給方法の問題といい得るものの、さらに翌年9月分賞与と調整することについては、賞与が1年単位で決定されることに照らして、異なる賞与間における相殺処理として賃金の控除といわざるを得ない。賃金全額払いの原則(労働基準法24条1項)との関係で、相殺処理としての過払賃金の控除は、過払のあった時期と合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合に限り、例外的に許容される。本件では、賃金の控除が時期、方法及び金額等からみて労働者の経済的生活の安定をおびやかすおそれがないとはいえず、相殺処理として許されるということもできない。 
 したがって、会社が令和3年9月分賞与から約22万円を控除したことについては、賃金全額払の原則(労働基準法24条1項)に反し無効と判断。

パソコンの共有フォルダに保存した就業規則の効力前のページ

ピックアップ記事

  1. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  4. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  5. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    調剤薬局で患者の感情を害する言動をする薬剤師を解雇した事案

    大阪地裁R6.2.22調剤薬局が経験者の薬剤師を採用。履歴書には「前…

  2. 判例・裁判例コラム

    半期ごとの業績評価により賃金を最大2割減額する規定の効力

    東京地裁R6.8.8半期(4〜9月、10月〜3月)ごとに成績…

  3. 判例・裁判例コラム

    会社はどこまで注意喚起すれば安全配慮義務を果たしたといえる?

    福井地裁R3.5.11従業員が工場で使用していた発がん性の薬剤が原因…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    住民票記載事項証明書の不提出を理由とする解雇の有効性
  2. 判例・裁判例コラム

    ジョブ型雇用における能力不足解雇
  3. 判例・裁判例コラム

    年功序列的賃金制度から成果主義的給与体系への就業規則変更を行った事案
  4. 判例・裁判例コラム

    マクドナルドの店長の管理監督者性
  5. 判例・裁判例コラム

    パソコンの共有フォルダに保存した就業規則の効力
PAGE TOP