判例・裁判例コラム

復職可否の立証責任

東京地裁H25.1.31
復職可否の立証責任
労働者の治療・回復に係る情報は、健康状態を含む個人情報であり、原則として労働者側の支配下にあるものであるから、復職可能な程度に病状が回復したことの立証責任は労働者が負い、立証がない限り、休職期間の満了によって雇用契約は当然に終了する旨判示。

事件名 伊藤忠商事事件
出典
労判 1083号83頁
労経速 2185号3頁 

判決原文(抜粋)
1 本件における休職事由の消滅に関する主張・立証の構造
(1) 被告の就業規則によれば,欠勤開始日における勤続が5年以上の従業員が傷病により引き続き欠勤し,1年6か月を超えたときは休職が命じられ,休職開始日における勤続が10年以上の従業員の休職期間は2年9か月間とされ,休職期間中に休職事由が消滅した場合には,復職が命じられると規定されているところ,原告が欠勤開始日における勤続が5年以上であり,休職開始日における勤続が10年以上の従業員であったことは,前提事実(4)のとおりである。また,原告が,平成19年4月24日以降の休職を命じられ,同日から起算して2年9か月間の満了する平成22年1月23日が満了したことは,前提事実(5)のとおりである。そして,就業規則の上記規定は,業務外の傷病による休職期間満了時の雇用契約の終了事由を規定したものと解するのが相当である(もっとも,後記2(5)のとおり,休職の原因とされた疾病が業務に起因することは,休職期間の満了による退職の効果を妨げる再抗弁事実となると解すべきである。)。
 そうすると,使用者である被告は,労働者である原告が傷病によって休職を命じられ,就業規則所定の休職期間の満了による雇用契約の終了を抗弁として主張・立証し,原告が復職を申し入れ,休職事由が消滅したことを再抗弁として主張・立証すべきものと解するのが相当である。
 この点,原告は,休職期間満了時の復職不能の主張・立証は,使用者側である被告がすべきであると主張する。しかし,雇用契約上の傷病休暇・休職の制度が,使用者が業務外の傷病によって長期間にわたって労働者の労務提供を受けられない場合に,雇用契約の終了を一定期間猶予し,労働者に治療・回復の機会を付与することを目的とする制度であると解すべき一方,労働者の治療・回復に係る情報は,その健康状態を含む個人情報であり,原則として労働者側の支配下にあるものであるから,休職期間の満了によって雇用契約は当然に終了するものの,労働者が復職を申し入れ,債務の本旨に従った労務提供ができる程度に病状が回復したことを立証したときに,雇用契約の終了の効果が妨げられると解するのが相当である。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

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