判例・裁判例コラム

現勤務先の利益より、元勤務先への義理を優先してよい?

東京地裁R6.10.23

不動産売買を事業とする会社の従業員が、マンション売却を希望する見込み客を競合他社に紹介し、コンサルティング業務料名目で個人的に報酬を得た。これを見つけた会社が労働契約における債務不履行であるとして損害賠償請求。従業員は、この見込み客と初めて接触したのは、以前の勤務先の代表者の担当顧客としてであり、この代表者の顧客と認識していたからそちらに紹介したのであり、従業員としてアプローチすべき見込み客の範囲には含まれないと反論した。

→新規顧客の開拓はこの従業員の職務内容の1つであり、また、就業規則において、職務上の地位を利用した私的取引や無許可の副業が禁止されていた。このことからすれば、従業員は労働契約上の義務として、見込み客と勤務先の間での取引成立に向け、誠実に職務を遂行すべき義務を負っていた。前職の関係での競業避止義務などに違反しない限り、従業員は、従前から有していた人脈も生かして現在の勤務先のために営業活動をすべきである。従業員がこの義務を果たしていれば、会社はこの見込み客と取引できた蓋然性が認められるから、従業員は会社に対し、債務不履行責任を負う。従業員に会社が失った利益分として310万円の支払いを命令。

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