判例・裁判例コラム

自宅待機中の従業員に対する出社命令

東京地裁R6.4.24

嫌いな人物はとことん追い詰める、高圧的な態度で1時間以上自席の前に立たせて説教する、上司からの改善指導にも激昂して反抗するなどの問題があった職員について、銀行が退職勧奨を行い、自宅待機を命じた。銀行は自宅待機命令後も給与を支給しつつ、職員と面談を実施するなどしていたが、職員が職場復帰を求めて紛争化。代理人をつけて、自宅待機命令が違法であると主張し、銀行に実態の確認及び謝罪を要求するなどした。
自宅待機命令から3年を過ぎたころから、職員は銀行からの連絡に全く応答しなくなった。銀行は出勤を命じることを検討している旨を書面で伝えたうえで、業務命令として就労を継続する意思の有無や就労できる健康状態かどうかの回答を職員に求めたが、職員が応じなかったため、業務命令違反として厳重注意にすることを通知。そのうえで出社を求めたがやはり応じなかったため、けん責処分とすることを通知。さらに出社を求めたがやはり応じなかったため、出勤停止処分とすることを通知。その後も銀行は3回にわたり就労を継続する意思の有無や就労できる健康状態かどうかの回答を求めたが職員は回答せず、銀行は面談の提案もしたが職員は応じないと回答した。そのため、銀行はこの職員を懲戒解雇
→正当な理由なく業務命令に違反して欠勤を繰り返しており、こうした労働者を放置していては企業秩序を維持することは困難だったといえる。銀行は段階を踏み改善の機会を与えており、職員は懲戒処分を受けても、就労を継続する意思の有無や健康状態について回答しなかったのだから、改善の可能性もなかった。本件の自宅待機命令は限度を超えた退職勧奨として部分的に違法であるものの、使用者が先行して違法行為をすれば使用者の業務命令に従わなくてよいということにはならないし、自宅待機命令によって職員が銀行に対して不信感、恐怖感を抱いた可能性はあるのの、就労を継続する意思の有無や就労できる健康状態かどうかの回答を求めるという業務命令の内容等に照らせば、そのことによって業務命令違反及び欠勤について正当な理由があるということはできない。懲戒解雇は有効と判断。


労働経済判例速報2567号

出勤停止の懲戒処分通知書を従業員が返送した場合の効力前のページ

自宅待機状態を続けさせたことが違法な退職勧奨であるとされた事例次のページ

ピックアップ記事

  1. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  2. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  3. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  4. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  5. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    休職について説明したにすぎず休職を命じていないとされた事例

    東京地裁H25.1.18バス会社の従業員が通勤中の交通事故で…

  2. 判例・裁判例コラム

    雑に作成された退職時の秘密保持誓約書が無効と判断された例

    東京地裁R6.2.19退職する従業員に、「退職後3年間は、貴社所属時…

  3. 判例・裁判例コラム

    会社の要請に反する行動を理由とする降格

    仙台高裁R5.1.26基本給=等級給+評価給と定め、等級給は等級に応…

  4. 判例・裁判例コラム

    休職者が産業医の面談は圧迫面接だと主張した事案

    名古屋地裁R3.8.23うつ病による休職からの復職後、再度休…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    休職について説明したにすぎず休職を命じていないとされた事例
  2. 判例・裁判例コラム

    営業担当者について退職後6か月間に限って同業他社への就職を禁止する誓約書の効力
  3. 判例・裁判例コラム

    引越し会社で特定の作業をこなした場合に支給される業績給は労基法施行規則19条6号…
  4. 判例・裁判例コラム

    マクドナルドの店長の管理監督者性
  5. 判例・裁判例コラム

    リハビリ勤務の規定をおけばリハビリ勤務を認める義務がある?
PAGE TOP