福岡地裁小倉支部R6.2.13
従業員がサウジアラビア出張中の屋外作業で作業開始3日目から体調不良を訴え、以後休養をとったが、10日後に亡くなった。遺族は労災保険の支給を受けたが会社に安全配慮義務違反があったとして損害賠償請求訴訟を提起
→裁判所は熱中症が原因と判断。会社は、冷房の効いた休憩室に水やスポーツドリンク、梅干しや塩昆布等を準備したり、休憩時間を午前10時、正午、午後3時の3回、合計2時間と多めに確保したりするなど、一定の熱中症予防対策はしていたと認められる。しかしながら、本件工事現場は熱中症発生リスクの高い作業環境であったことからすれば、会社においては、水や食事の摂取状況を把握したり、作業開始時や休憩時はもちろん、作業中であっても、頻繁に巡視をして声をかけたりして、労働者の健康状態等を把握し、体調がすぐれない労働者については作業を中止させるなどの措置を講ずべき義務があった。本件では、体調不良を訴える前日の夕食時点で食欲不振の兆候が見られていたことからすれば、会社としては、翌日の体調や食事の摂取の有無について確認した上で、遅くとも、この従業員が昼食を摂取しなかったとの事実が生じた後の午後の作業開始時頃までには、作業を中止させるなどの措置を講ずべき義務があった。会社は、食事の摂取状況について把握をしておらず、作業中に声をかけるなどして体調を確認した形跡もない。会社に安全配慮義務違反ありとして、会社に約5000万円の賠償命令
※控訴審では理由付けの一部が変更されましたが、結論は維持されました。控訴審の判決は、「会社には、熱ストレスの客観的評価を行った上で的確に熱中症発症のリスク評価を行うことを前提に、労働者の健康状態等の管理に対する各別の配慮が求められ、熱中症発症に影響を与えるおそれがある事情として、労働者の睡眠状況や食事(特に、朝食)、水分及び塩分の摂取状況を的確に把握し、労働者の自覚症状にかかわらずその摂取を指導するなどして、熱中症の予防措置を的確に実施すべき注意義務があった」としたうえで、本件の総括責任者は、飲料水等の摂取や体を冷やす備品の装着等は労働者任せにしており、作業開始時や作業中及び休憩時において、労働者の自覚症状にかかわらず、その判断、自由に任せることなく、定期的に水分及び塩分の摂取状況や体を冷やすための備品の装着状況を確認し、指導等をしたとは認められないと指摘しています。