大阪地裁R7.3.24
麻酔科医がクリニックから、就業時間外も、クリニックまたは自宅において待機し、呼出しの連絡があれば、その着信に遅滞なく気付き、必要に応じて直ちに駆け付け、麻酔科医として勤務する必要があったとして、この呼び出し待機時間も労働時間であると主張。約1億7000万円の割増賃金を請求した
→呼出し待機時間中に労働からの解放が保障されていたといえるか否かは、呼出しの頻度、呼び出された場合に求められる対応の迅速さの程度、待機時間中の行動の制約の程度等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
この点、本件では、呼び出しの件数は月2、3回程度であり、まれとまではいえないが、頻繁とはいえない。
また、クリニックは、リスクの低い妊娠のみを取り扱う一次施設であり、無痛分娩は緊急性の高いものではなく、麻酔科医が麻酔を施行するまでには一定の時間的余裕があった。緊急帝王切開についても、多くの場合、麻酔科医は、正式な呼出しの連絡を受ける前の段階で、内診をした助産師から緊急帝王切開になるかもしれない旨の連絡を受けており、そのような連絡を受けてから正式な呼出しの連絡を受けてクリニックに出勤するまでには一定の時間的余裕があった。グレードAの緊急帝王切開については、母児の生命等に関わることから、30分以内の娩出を目指すことが求められていたものの、それ以外のグレードについては、そこまでの緊急性はなく、グレードAの緊急帝王切開であっても、産婦人科医又は麻酔科医のうち早くクリニックに到着した者が麻酔を施行する体制がとられており、必ずしも直ちにクリニックに出勤しなければならないわけではなかった。
さらに、医師は、自宅や外出先という私的な生活領域で待機し、その待機時間中も食事、入浴、睡眠をとるなど、比較的自由に過ごすことができたことが認められる。このことは、待機時間の労働時間性を否定するかなり大きな事情になる。
このような呼出しの頻度、呼び出された場合に求められる対応の迅速さの程度、待機時間中の行動に対する制約の程度等に照らせば、待機時間中の行動や待機場所に一定の制約があったことや、待機時間中にいつ呼出しの連絡があるか分からないという心理的負担があったと考えられることを踏まえても、待機時間中に労働からの解放が保障されていなかったとはいえない。待機時間は、労働時間には当たらないと判断。