判例・裁判例コラム

労働者がプレス機で手指を骨折して損害賠償請求。裁判所が会社を勝訴させた理由とは?

東京地裁R4.3.30

勤続10年超の労働者がフットペダル式プレス機を操作中、誤って右足でペダルを踏み込み、左手指を挟まれたとして労災認定された(後遺障害10級認定)。その後、会社に対して、安全配慮義務違反を理由に2000万円超の損害賠償請求
→労働者は「ペダルをはさむ形で、両足ともに接地していた。その後、試し材を取りに行こうと思い、プレス機から離れようと、椅子から立ち上がりながら、両膝の後ろで椅子を押し下げ、左足に重心を置いて、左足を椅子よりも外に出した。そして、右足も左に寄せるように動かすことで、ちょうど右足でペダルをまたぐような形になった」「そして、椅子から腰を上げて立ち上がるまでのタイミングで、ダイセットの上部の真ん中より若干左寄りのところに、抜きカスを見つけて、とっさに左手を出したときに、ふらついて、右足でペダルを踏んだ」と主張する。
 しかしながら、仮に、労働者の供述通り、体が左方向に動いており、重心も左足に移っているのであれば、接地している右足も、これに応じて左上方向に動くはずであるから、ペダルをまたぐような形になったという右足で、床面から18cmの高さにあるペダルの上面を上から下に向けて垂直に踏み込むことは身体構造上、困難である。そうすると、ペダルを誤って踏んだという労働者の供述は信用することができない。裁判所の進行協議期日における労働者の事故状況の再現内容にも同様の不自然さを認めることができる。労働者には借入れがあるなどして金銭的に余裕がない状態であったことが認められるところ、過去に同様の事故を起こして労災給付を受けた経験があること、今回の事故によって得られる経済的利益は労働者の収入と比較すると相当高額といえることなどの事情を踏まえると、労働者は意図的にペダルを踏み込んだものと認めるのが相当。労働者の負傷は会社の安全配慮義務違反によるものではない。請求認めず。

職場内の盗撮。会社の対応は遅すぎ、被害者と加害者の優先順位を見誤っているとして賠償命令!鳥取地裁前のページ

退職直前にメール約180通を削除した退職者の損害賠償責任次のページ

ピックアップ記事

  1. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  2. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  3. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  4. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  5. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    パワハラ加害者による調査協力拒否、調査妨害を理由とする普通解雇の有効性

    🚨上司がパワハラ調査を拒否し、職員に直接圧力。普通解雇は有効?東京地…

  2. 判例・裁判例コラム

    残業代の支払期日

    さいたま地裁H29.4.6就業規則で職員の給与について毎月末日締め当…

  3. 判例・裁判例コラム

    診断書提出後もマスク着用を指示し続けたのは違法か?

    大阪地裁R5.5.22日本郵政株式会社がコロナ禍に郵便局職員にマスク…

  4. 判例・裁判例コラム

    キャバクラ嬢は労働者?割増賃金請求できるのか?

    東京地裁R7.6.25キャバクラ嬢(キャスト)が自分は業務委…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    上司の腹部をつついてちょっかいを出すなどしていた女性部下が、その上司によるセクハ…
  2. 判例・裁判例コラム

    住民票記載事項証明書の不提出を理由とする解雇の有効性
  3. 判例・裁判例コラム

    試用期間中に2回の事故を起こし、ミスも改善されない従業員を実働10日で解雇した事…
  4. 判例・裁判例コラム

    定年後再雇用 有期雇用の更新時に転勤を命じることの可否
  5. 判例・裁判例コラム

    キャバクラ嬢は労働者?割増賃金請求できるのか?
PAGE TOP