判例・裁判例コラム

会社が病気を理由に運転禁止命令!違反したのに解雇無効。裁判所が問題視した会社の対応とは?

東京地裁R7.2.27
保険代理店を経営する会社が、営業職の従業員に対し、躁うつ病を理由に「自動車運転による通勤、顧客先への業務訪問については、交通事故等の危険が生じる恐れがある」として、業務命令として、自動車運転による通勤、顧客先への業務訪問の禁止を命じた。
しかし、これに違反して従業員が自動車運転を継続。
会社は禁止命令の11日後にこの従業員に自宅待機を命じ、その後、この従業員を解雇した。
→従業員の精神疾患に関する全ての服用薬の注意事項に、自動車の運転を控えることが明記されていたことが認められるところ、従業員は、会社の業務命令に違反して自動車の運転を継続した。
しかし、運転禁止の業務命令の理由を記載した業務命令書には、服用薬の影響を理由とする旨の記載はない。
また、会社が業務命令の理由が服用薬の影響であることを説明したことは認められない。
さらに、会社は、従業員が命令に違反して自動車の運転を継続していたことに対して注意指導をしたことはなかったことからすると、運転禁止の業務命令違反をもって、直ちに、解雇とすることは、不合理であって相当とはいえない。
その他、会社が主張する人事面談拒否、無断欠勤等の解雇理由も重要視すべきものではない。
解雇無効と判断

業務命令違反を理由とする解雇については以下で解説しています。あわせてご参照ください。
https://kigyobengo.com/media/useful/1914.html

企業側から見たポイント
裁判所は運転禁止命令違反そのものは明確に認定しましたが、解雇は無効と判断しました。
その理由の1つは、会社が「なぜ運転を禁止するのか」を十分に説明していなかったことです。
会社は訴訟では「服用薬の影響で運転すべきでなかった」と主張しましたが、実際に交付した業務命令書には、「病状が躁うつ病と確認されたため」「交通事故等の危険が生じるおそれがある」と記載されているだけでした。
服用薬の注意事項を根拠として運転を禁止するという説明がありませんでした。 裁判所は、この点の問題を指摘しています。
つまり、
「精神疾患があるから運転禁止」
「危険が生じる恐れがあるから運転禁止」
ではなく、
「現在服用している薬剤について、添付文書上、自動車運転を控えるよう記載されている。この状態で営業車を運転すると事故の危険のおそれがあるため、医師から運転可能との医学的見解が確認できるまで運転を禁止する」
というように、客観的根拠と解除条件まで具体的に示すべきでした。
さらに、命令違反に対して注意指導を経ずに解雇した点も問題がありました。
まずは、「運転禁止の命令を守ってください。再度違反した場合は懲戒処分・解雇を含む措置を検討します」と指導すべきでした。
会社から見れば業務命令違反であっても、それに対する懲戒や解雇が訴訟で無効とされるということはよくあります。必ず、人事労務分野に企業側で対応する弁護士に相談して対応すべきです。

事業承継で引き継いだ就業規則が実は無効? 退職金不支給で会社敗訴!前のページ

ピックアップ記事

  1. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  2. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  3. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  4. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  5. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    入社前日の電話で内定が取消しに! それでも「有効」とされた理由とは?

    東京地裁R7.7.30 コロナ禍に眼科医院が30代の女性看護師に内定…

  2. 判例・裁判例コラム

    懲戒解雇の通知後に行った予備的普通解雇が無効とされた事案

    東京地裁R3.6.25職務怠慢やハラスメントを理由に従業員を懲戒解雇…

  3. 判例・裁判例コラム

    35年以上続いた定期昇給を中止できる?

    東京地裁R5.10.30学校法人が35年以上行なってきた4月の定期昇…

  4. 判例・裁判例コラム

    有給取得取得予定日前日の時季変更権行使

    札幌高裁R6.9.13ホテルの宿泊部部長がハワイで挙行される娘の結婚…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    聴覚障害のある職員に対する配慮として会議の筆記サポートが必要?
  2. 判例・裁判例コラム

    カツオの荷抜き行為が発覚した売場係長に対する退職金不支給
  3. 判例・裁判例コラム

    東京地裁H5.3.23
  4. 判例・裁判例コラム

    正社員に寒冷地手当を支給するが契約社員には支給しないことは違法?
  5. 判例・裁判例コラム

    早出残業の残業代請求が認められた事例
PAGE TOP