判例・裁判例コラム

職種限定合意がある従業員に対する配転命令

最高裁R6.4.26
社会福祉法人が福祉用具の改造・製作を行う技術者を職種を限定して採用。職員は、その後、15年以上にわたり技術者としての勤務を続けたが、改造需要が激減。一方、総務課において退職者が出て欠員が生じた。そこで、法人はこの職員に総務課への配置転換を命じた。職員はこの配置転換命令は職種限定の合意に反しており違法であると主張したが、大阪高裁は、法人がこの職員を解雇するという事態を回避するためには、総務課に配転することにも業務上の必要性があり、違法ではないと判断。職員が上告した。
→最高裁は「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該同意に反する配置転換を命ずる権限を有しない」と判示。大阪高裁の判断には違法があると判断。

※本件では、書面による職種限定の合意はありませんでした。しかし、京都地裁、大阪高裁は、①職員が技術系の資格を数多く有していること、②中でも溶接ができることを見込まれて前職から勧誘を受け、機械技術者の募集に応じて前職に採用され、法人はその後その雇用を引き継いだこと、③前職からあわせると、福祉用具の改造・製作を行う技術者としての勤務を18年間にわたって続けていたこと、④法人は、福祉用具の改造・製作業務を外部委託化することを県から禁止されていたため、外部委託は想定されておらず、かつ、上記の18年間の間、職員が職場内において溶接のできる唯一の技術者であったことなどを理由に、黙示の職種限定合意があったと判断しています。

ジョブ型雇用でポストが失われた場合に使用者に求められる解雇回避措置の内容前のページ

セミナー「ジョブ型雇用の就業規則の作り方とジョブ型雇用の裁判例」開催のお知らせ次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  4. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  5. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…

関連記事

  1. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    判例・裁判例コラム

    就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    事件の概要給与規程において、「業務内容の変更に伴い、その業務…

  2. 判例・裁判例コラム

    聴覚障害のある職員に対する配慮として会議の筆記サポートが必要?

    東京地裁R7.3.26聴覚障害があり、メガバンクに障害者雇用…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    休職者が産業医の面談は圧迫面接だと主張した事案
  2. 判例・裁判例コラム

    殺人未遂容疑で逮捕された営業担当者に対して、会社が釈放後に行った休職命令は適法か…
  3. 判例・裁判例コラム

    まじめな職員が業務を期限までに終えられないことを苦に自殺したことについて、積極的…
  4. 判例・裁判例コラム

    送別会で酩酊して助け起こされた女性がセクハラ被害を訴えて欠勤。会社は無断欠勤を理…
  5. 判例・裁判例コラム

    訴訟をすれば有給休暇の時効がとまる?
PAGE TOP