判例・裁判例コラム

従業員に周知された資料に基づき、降格にともなう賃金減額を行った事案

東京地裁R5.6.9
管理職としての能力不足を理由に従業員を非管理職に降格させ、賃金を年収1020万相当から920万相当に減額
→会社が賃金を労働者に不利益に変更するには、労働者との合意又は就業規則等の明確な根拠が必要。この点、就業規則には、職務等の変更に伴い降給があり得る旨が記載され、「その場合、新給与は、新職務に対応する給与レンジ内で決定する」と記載されている。ところが、給与レンジの額は就業規則に定められていない。
 一方、社内のイントラネットに掲載され、従業員に周知されていた資料には、管理職から非管理職に変更となる場合の変換式について「変更前の月例基本給×12÷125%÷18」と明記されている。しかしながら、就業規則には、この資料への委任規定はなく、資料が就業規則の届出の際に労働基準監督署長に届け出られたこともない。また、資料に記載されている変換式も変更前の基本給に応じた単一の解を示すもので、「給与レンジ内で決定する」との就業規則の定めに整合しない。以上によれば資料を就業規則の一部と認めることはできない。賃金の減額は無効と判断。

セミナー「ジョブ型雇用の就業規則の作り方とジョブ型雇用の裁判例」開催のお知らせ前のページ

給与振込担当者が自分の給与を勝手に増額させていたとして懲戒解雇された事案次のページ

ピックアップ記事

  1. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  4. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  5. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)

関連記事

  1. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    判例・裁判例コラム

    就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    事件の概要給与規程において、「業務内容の変更に伴い、その業務…

  2. 判例・裁判例コラム

    賃金減額について定める給与規程の不備

    東京地裁R5.1.11不動産会社が、給与規程において「同一等…

  3. 判例・裁判例コラム

    始業前の就業準備行為の労働時間性

    東京地裁H15.10.3就業規則に「15分前迄に出社し、就業に適する…

  4. 判例・裁判例コラム

    支払いすぎた賞与を翌年の賞与から控除できる?

    東京地裁R5.12.28外資系の医薬品販売会社が、従業員に対し、9月…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    従業員に周知された資料に基づき、降格にともなう賃金減額を行った事案
  2. 判例・裁判例コラム

    PIP実施方法の問題点が指摘され、解雇が無効とされた事例
  3. 判例・裁判例コラム

    入社後約4年間にわたり「残業手当」の名目で支給していた賃金が時間外労働の対価とは…
  4. 判例・裁判例コラム

    外国人技能実習生の指導員について事業場外労働のみなし労働時間制の適用を否定した高…
  5. 判例・裁判例コラム

    クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?
PAGE TOP