判例・裁判例コラム

給与振込担当者が自分の給与を勝手に増額させていたとして懲戒解雇された事案

東京地裁R6.2.21

一般社団法人で職員の給与の振込手続を担当していた事務局長が、長年、理事長の承認なく、自分の給与を増額させて振り込んでいたとして懲戒解雇された。事務局長は法人に対する訴訟を起こし、給与の増額については理事長の承認を得ていたとして懲戒解雇の無効を主張した。
→法人における職員の給与については、平成21年度以前は給与表に理事長の決裁印を押してもらうことで決済されていたが、それ以降は実支給額が記載された理事長決済印のある給与表が存在しない。これは、給与の増額について理事長の承認を得ていなかったことを認める有力な根拠といえる。
 また、事務局長とその協力者の給与が異常な増え方をしているのに対し、他の職員の給与等は全く昇給されておらず、そのような給与を理事長が承認するメリットや理由があるとは考えられない。
 さらに、事務局長は給与振込後に銀行から送付される給与振込確認書を、鍵のかかった自身のデスクに保管していた。一方で法人の決算を承認する定時総会には、本物の給与振込確認書とは振込金額のみが異なる偽造の給与振込確認書が提出されていたが、これは本物の給与振込確認書を見なければ作ることが困難である。本物は事務局長が鍵のかかった自身のデスクに保管していたのだから、事務局長が偽造の給与振込確認書を作成したと認めることができる。
 以上を踏まえれば、事務局長が給与の増額について理事長の承認を得ていたとは認められない。理事長の承認なく不正に受給された給与の総額は1億円以上に及んでおり、懲戒解雇は有効と判断

従業員に周知された資料に基づき、降格にともなう賃金減額を行った事案前のページ

20年以上勤続のドラッグストア店長が4201円の不正取得等により懲戒解雇された事案次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  4. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  5. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    職場内の人間関係を理由に休職者の復職を認めないことは可能?

    大阪高裁H27.2.26双極性障害による休職からの復職を認められなか…

  2. 判例・裁判例コラム

    訴訟をすれば有給休暇の時効がとまる?

    東京地裁R6.3.26シフト制で働く飲食店従業員が、訴訟の中で、未払…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    諭旨解雇処分を受けて提出した退職届の効力
  2. 判例・裁判例コラム

    暴力・暴言繰り返す社員の解雇
  3. 判例・裁判例コラム

    ハラスメント調査への不服を経営陣らに送り続ける社員の解雇
  4. 判例・裁判例コラム

    教頭を侮辱的な言葉で非難する教員に対する懲戒処分
  5. 判例・裁判例コラム

    部下の上司に対するハラスメントについての懲戒処分
PAGE TOP