判例・裁判例コラム

有期雇用の従業員との退職合意

東京地裁R6.2.29
定年後再雇用された従業員が有期雇用の期間中に会社から一方的に退職扱いとされたとして、地位確認請求訴訟を提起。会社は、「3月11日~翌年3月10日までの有期雇用だったところ、期間中の8月5日ごろ本人と退職合意し、3月11日~8月15日までの有期雇用契約書を作成しなおしており、これにより退職合意が成立している、本人も8月5日から8月15日まで有給消化をしていた」と主張。
→就業規則には、社員が自己の都合により退職しようとするときは、少なくとも14日前までに退職願(会社の所定用紙)を提出しなければならない旨を定められている。それにもかかわらず、会社は、この従業員の退職扱いについては、退職願の提出を求めず、契約終了日を繰り上げた雇用契約書を作成している。この点について、会社は、雇用保険の受給の関係で従業員に有利になるように取り計らったものである旨の主張をするが、仮にそのような面があったとしても、会社があえて所定の退職手続とは異なる方法を採るのであれば、それについての十分な説明と従業員の了承を得ることが求められるが、本件ではこれが認められない。地位確認請求を認め、バックペイの支払いを命じた。

※本件での会社の主張は、「会社の専務がこの従業員の勤務態度等について叱責したところ、本人から退職の意向を伝えたので、退職合意の趣旨で8月15日までの有期雇用契約書を作成した。これは、退職届の提出による自己都合退職でなく期間満了の形を採る方が雇用保険の支給が早くなると考えたことによるものであった」というものでした。

労働判例ジャーナル151号42頁

引越し会社で特定の作業をこなした場合に支給される業績給は労基法施行規則19条6号の出来高払制賃金にあたるか?前のページ

午前9時を始業時刻とする会社で午前8時より前にタイムカードがされていた場合の早出残業代の扱い次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  3. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  4. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  5. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    アルバイトをシフトに入れなかった使用者の責任

    東京地裁R6.3.26コロナ禍で休業していたラーメンチェーン…

  2. 判例・裁判例コラム

    職種限定合意がある従業員に対する配転命令

    最高裁R6.4.26社会福祉法人が福祉用具の改造・製作を行う技術者を…

  3. 判例・裁判例コラム

    実質個人経営の居酒屋を経営する会社代表者の責任

    東京地裁R5.3.23居酒屋で勤務する33歳の従業員が突然死…

  4. 判例・裁判例コラム

    休職について説明したにすぎず休職を命じていないとされた事例

    大阪地裁H25.1.18バス会社の従業員が通勤中の交通事故で…

  5. 判例・裁判例コラム

    1年以上服薬せずに日常生活を送っていた休職者の復職可否判断

    名古屋地裁R3.8.23躁うつ病(双極性障害)で休職していた休職者が…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    就業規則に休職期間の延長規定を設けた場合の効力
  2. 判例・裁判例コラム

    退職勧奨を拒否した従業員にのみ在宅勤務を認めず、在宅勤務用パソコンを返却させたこ…
  3. 判例・裁判例コラム

    スマホの位置情報を示すGooglemapのタイムライン記録を証拠に残業代を請求さ…
  4. 判例・裁判例コラム

    232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?
  5. 判例・裁判例コラム

    業務命令に応じない従業員への対応事例②
PAGE TOP