判例・裁判例コラム

自分自身が納得することを最優先し、会社業務への支障を生じさせる従業員の解雇

東京地裁R6.3.29

上場企業が、司法試験に合格した弁護士職務経験のある労働者を年俸約800万円で採用。しかし、①上司の指示に対して、「法務の仕事ではないと思います」「アシスタントさんがされる業務です」等と拒否する、②上司から指示された契約書の保管業務を高度専門職として入社した自身の業務として適切でないとして拒否する、③他部署に不要な照会等を繰り返し、これらの部署の担当者の負担となり、照会を控えるよう指導されたにもかかわらず、聞き入れずに、不要な照会を繰り返す、④指示された業務の期限を上司の同意なく勝手に変更し、上司らからこれを指導されても「大丈夫です。お二人の認識が間違っているということは、私のほうで認識しているので。」などと堂々と述べるなどの問題があり、普通解雇した

→これらに共通するのは、自分自身が納得することを最優先し、会社の業務に支障を生じさせることに思いが至っていないことである。高度専門職は、会社に大きく貢献することが求められる立場にあるから、他の社員と有機的に連携し、業務効率を上げることが求められている。そうすると、これらの事実は、解雇事由に該当する。そして、けん責処分を受け、また人事考課でも自己の見解に固執する態度に問題があると指摘を受けたにもかかわらず、さらに③④の行為に及んでおり、勤務態度の改善はもはや期待し得なかった。会社は、継続雇用が難しいと判断した後も、特別退職金の支給や再就職支援サービスの提供を内容とする転職を勧めたりして、従業員の利益にも配慮し、その処遇を慎重に検討してきた。これらを踏まえれば、解雇は有効と判断。

部下の上司に対するハラスメントについての懲戒処分前のページ

不備のある定額残業代を就業規則変更によって有効にできる?次のページ

ピックアップ記事

  1. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  4. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  5. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    長時間労働者に早く帰宅するように指導しても帰らない場合に会社がとるべき対応

    大阪地裁H20.5.26長時間労働のシステムエンジニアがうつ状態と診…

  2. 判例・裁判例コラム

    通勤中に立ち寄ったコンビニで転倒して負傷した場合の労災請求

    東京地裁R6.6.27出勤途中で立ち寄ったコンビニ内で転倒し、腰椎捻…

  3. 判例・裁判例コラム

    適応障害による休職からの復職にあたり賃金を減額した事案

    東京地裁R5.12.28適応障害による休職からの復職にあたり、賃金が…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    キャバクラ嬢は労働者?割増賃金請求できるのか?
  2. 判例・裁判例コラム

    どのくらいの時間数の副業なら本業に支障を生じさせると認められる?
  3. 判例・裁判例コラム

    レジから2000円をとった美容師の普通解雇
  4. 判例・裁判例コラム

    人事考課について会社は広範な裁量があるのか?
  5. 判例・裁判例コラム

    パワハラ被害について自ら対応し、会社による対応を希望しないと言われた場合の使用者…
PAGE TOP