東京地裁R5.12.14
給与規程において、「業務内容の変更に伴い、その業務に相当しないと会社が判断した場合、昇給または降給することがある。」と定めている会社で、「俺の言うことと違うやり方をしたいなら俺より数字をあげてみろ」「お前ら、なめてんじゃねえ」などと部下に対して威圧的・理不尽な指導をする営業所長を営業職に降格させた。賃金テーブルに従って賃金(本俸)を減額。
→賃金は労働者にとって最も重要な労働条件の一つであるから、これを使用者が労働者との合意なく一方的に変更できるためには、労働契約又は労働契約の内容となる就業規則上の根拠が必要であり、労働契約又は就業規則において、少なくとも賃金を減額する事由及び当該事由に対応する具体的な減額幅が明示されている必要がある。上記規定では、どのような場合に、どの程度の金額を減額するのかを読み取ることができない。会社は賃金テーブルを設け、役職ごとの基本給を定めていたことが認められるが、この賃金テーブルは労働契約又は就業規則に定められたものではなく、労働者への周知もされていなかったのだから、労働者の基本給を減額するための根拠としては不十分である。基本給の減額は無効であるから、会社は減額分を過去にさかのぼって支払うべきと判断。
降格=賃金減額という誤解があった事案のように思います。
本件で営業職への降格は有効であっても、給与規程に「業務内容の変更に伴い、その業務に相当しないと会社が判断した場合、昇給または降給することがある」とあるだけでは、給与の減額はできません。
なぜなら、このような会社の判断で自由に賃金を減額できるかのような規定は、労働契約法7条において求められる合理性の要件を欠き、労働契約法3条1項の「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」という労働契約の原則にも反するからです。
降格(職務の変更)が有効であっても、それに伴い、賃金を減額できるかは別の問題です。
必要な項目を定めないまま、あたかも降給させることができるかのような規定を設けたことは、人事担当者の判断を誤らせて、本件のような労使トラブルのきっかけを作るものであり、このような規定は問題が大きいと言わざるを得ません。
適切な規定が設けられて賃金減額が認められた事案もまた投稿したいと思います。





