東京地裁R7.2.17
大手マーケティング会社が、月例給与の改定率を、人事考課の評価の結果で決める制度を設け、その人事評価の項目として、〔1〕チャレンジ促進、〔2〕革新、〔3〕Create“Get Things Done”culture、〔4〕責務の遂行、〔5〕効果的なチームの構築、〔6〕人材の可能性を広げる/人材の育成、〔7〕戦略策定、〔8〕協働、〔9〕仕組化、〔10〕社内外の顧客価値向上、〔11〕スピーディーな判断という11項目をかかげた。これにより、C評価と査定されて、降給となった従業員が訴訟を提起
→この従業員の格付けでは、S評価は9%昇給、A評価は5%昇給、B評価は0.3%昇給などと定められる一方、C評価は2%の降給、D評価は10%の降給と定められている。そして、会社の相対評価分布ガイドラインによると、考課対象者の95%に対して昇給となるプラス評価を行うものとされており、実際にもマイナス評価は2%に満たない人数であったことからすると、この会社の人事評価制度において、月例給与は昇給させることを基本としており、降給となる評価は例外的な場合にされるものであったとみることができる。そうすると、人事考課について会社に広範な裁量があるとしても、マイナス評価(C評価及びD評価)と判断する場合には、評価の根拠となる事実の有無や、事実に対する評価について、より慎重な検討、判断が求められるというべきである。
従業員については入社から3年間はB評価とされており、その後C評価に引き下げられているが、本部長はフィードバック面談において最終評価がCに引き下げられた理由を具体的に説明できていない。本部長は、従業員について、入社当初から格付に相応しい行動ができていなかったが、評価は、入社から2、3年は平均的な評価にとどめる運用をしていたことから、B評価とされてきたと主張し、各項目のうち、〔2〕革新、〔7〕戦略策定、〔8〕協働及び〔9〕仕組化が低評価であり、その他の項目は平均であったものの、全体としては平均を下回る評価であったと証言する。しかしながら、人事考課において1次評価者が作成するとされている11項目ごとの5段階評価(1~5の絶対評価)の記録が残されていないことや、本部長が、査定直後のフィードバック面談において、C評価とされた理由について、評価項目に沿った具体的な説明をしていないことを踏まえると、証言は、にわかに採用し難い。C評価とした点は、評価の根拠とされた事実の基礎を欠いており、人事考課が会社の広範な裁量的判断に委ねられているという点を考慮しても、裁量権の逸脱、濫用があり、同評価とそれに基づく月例給与の降給は、権利濫用により無効であると判断