判例・裁判例コラム

有給取得取得予定日前日の時季変更権行使

札幌高裁R6.9.13
ホテルの宿泊部部長がハワイで挙行される娘の結婚式に出席するため、約半年前に有給休暇をとることの了承を得た。
しかし、会社は渡航予定日前日になって海外渡航によるコロナ感染の危険を理由に時季変更権を行使した
→当時、海外への渡航が感染リスクを高めると社会的に認識されていた。
また、各種施設の従業員の感染に関する報道状況や重要なイベントであっても中止や自粛が感染防止に必要であると社会的に受け止められていた当時の状況に照らせば、海外渡航後に感染が発覚した場合には、感染の事実等が大々的に報道されるなどして、会社の社会的評価の低下をもたらし、事業運営上の影響が生じるおそれは十分あった。よって、時季変更権行使の要件は満たす。
ただし、時季変更権の行使は、労働者の不利益を最小限にとどめるため、時季指定がされた後、事業の正常な運営を妨げる場合にあたるか否かを判断するのに必要な合理的期間内にできるだけ速やかにされる必要があり、不当に遅延した時季変更権の行使は違法である。
本件では、申請した時季に休暇を取得することについての期待が極めて大きく、仮に時季変更権を行使するのであればできる限り速やかに行使する必要があることは明らかであった。
有給休暇の期間を翌月であると勘違いしていた社長が、直前に自らの勘違いに気付き、渡航予定が翌日からであると認識した後、わずか1時間足らずで時季変更権を行使する決断をしていることからすれば、もっと早く時季変更権を行使することはできた。
会社が休暇開始日の前日に至って時季変更権を行使したことは違法であると判断

有給休暇の時季変更権については以下で解説しています。併せてご参照ください。
https://kigyobengo.com/media/useful/2152.html

年次有給休暇の利用目的を考慮することができるかという観点からも注目される裁判例です。
判例は、有給休暇をどう利用するかは労働者の自由であり、利用目的を考慮して有給休暇を与えないことは許されないとしてきました。
ポストの裁判例の事案では、このような理屈との関係についても問題になりました。
本件の裁判所は、本件の時季変更権行使は、娘の結婚式に参加するという有給休暇の利用目的自体を問題視したものではなく、海外渡航により感染する危険性が高まることが会社の事業運営を妨げる客観的事情として認められるのであって、労基法の趣旨に反して利用目的自体を考慮した時季変更権の行使であるということはできないとしています。

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