判例・裁判例コラム

会社が傷病手当金の申請に協力しなかったことを理由とする損害賠償請求

東京地裁R6.11.13

糖尿病の治療のため約2週間入院していた従業員が、チャットで、経過を報告し、傷病手当金支給申請手続への協力を求めた。その後、従業員は会社に申請書を送付し、事業主の証明欄を記入して返還すること等を求めた。しかし、会社は対応しなかった。従業員はこれが不法行為だと主張
→事業主は、労働契約に付随する信義則上の義務として、事業主としての証明をするなど傷病手当金の支給申請手続に協力すべき義務がある。会社は、従業員から申請書の事業主の証明欄への記入等を求められたにもかかわらず、これに対応しなかったのであるから、この点について不法行為が成立する。会社は、①従業員が同じ疾病について労災申請をしているから、健康保険の傷病手当金の受給要件を満たさない、②傷病手当金の不正受給を疑い、従業員に事実確認を求めたが、従業員がこれに応じなかったため、事業主の証明欄を記入しなかった、③その後、事業主の証明欄を記入して従業員に出社を求めたが、従業員がこれに応じなかったなどと主張。しかし、①については、労災申請が認められたといった事情は認められず、これをもって、傷病手当金の受給要件を満たさないということはできないし、②についても傷病手当金支給申請手続への協力を拒む理由にはならず、③については申請書を返還することは可能であったから、会社の主張は採用できない。傷病手当金相当額67万2000円の賠償命令。

現勤務先の利益より、元勤務先への義理を優先してよい?前のページ

基本給を最低賃金相当額としつつ200時間分相当の固定残業代を支給した事案次のページ

ピックアップ記事

  1. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  2. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  3. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  4. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  5. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    早出残業の残業代請求が認められた事例

    仙台高裁R5.11.30歯の補綴物及び義歯の製作等を業とする株式会社…

  2. 判例・裁判例コラム

    日報を提出しない従業員に対するけん責処分

    東京地裁R6.5.30営業所長の再三の提出指示にもかかわらず、営業日…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    メンタル休職から復職して21か月後の秋田への転勤命令
  2. 判例・裁判例コラム

    朝礼で職員同士が仲が悪いと発言した代表取締役の不法行為責任
  3. 判例・裁判例コラム

    正社員に寒冷地手当を支給するが契約社員には支給しないことは違法?
  4. 判例・裁判例コラム

    送別会帰りのタクシーでのセクハラについて会社は使用者責任を負う?
  5. 判例・裁判例コラム

    教頭を侮辱的な言葉で非難する教員に対する懲戒処分
PAGE TOP