判例・裁判例コラム

サイボウズの記録に基づく残業代請求が認められなかった事例

東京地裁R7.1.17

建設業者で職人の手配や現場の管理などを担当していた取締役が従業員としての地位に基づき残業代(時間外労働の割増賃金)を請求。会社で使用していたサイボウズに記録された時間が実労働時間を示すものであると主張した
→会社では、タイムカード等の労働時間を管理するシステム等が導入されておらず、従業員がサイボウズに予定を入力することによって、従業員の予定等を把握することになっていた。スケジュールに変更がある場合も、サイボウズに入力することになっていた。会社は、従業員に貸与する携帯電話に位置情報共有アプリをインストールしており、従業員の所在を確認することも可能であった。このようなサイボウズの内容や従業員の業務内容等からすれば、従業員が一定の時間外労働をしていた可能性を直ちに否定できない。
しかし、サイボウズに記録された時間は、従業員の予定であり、労働時間を機械的に記録するものではない。また、会社がサイボウズに記録された時間に従業員が労働したかを確認していたと認めるに足りる証拠もない。従業員が5日間病気により欠勤したことがあったが、サイボウズの記録に反映されておらず、予定の変更があった場合、実際にどの程度サイボウズの記録の修正がされたか疑問も残る。さらに、サイボウズに記録された時間にそのとおりに勤務したとは認められない日が複数あり、サイボウズに記録された業務内容とアプリ上の位置情報が整合していない日もある。そうすると、一定の時間外労働をしていた可能性を否定できないものの、サイボウズに記録された時間が実労働時間であったとまでは認めるに足りない。
また、従業員はLineメッセージによる業務完了報告が、終業時刻を示すものであるとの主張もしているが、令和5年7月20日と21日のLineメッセージを送信した際、アプリの位置情報によれば、会社にはおらず自宅付近にいたことがうかがわれることなどを考慮すれば、Lineメッセージを送信した時刻まで就業していたことまでは認められない。時間外労働の割増賃金の請求認めず

年下の女性上司に不満をあらわにし、大声を出して机を叩くなどといった威圧的な態度を示す男性職員の解雇前のページ

私傷病休職からの復職者の症状が悪化したときの対応〜休職期間がもう残っていない場合はすぐに退職扱いになるのか?次のページ

ピックアップ記事

  1. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  2. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  3. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  4. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  5. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    定年前の業務命令違反について定年後に懲戒処分できる?

    東京地裁R7.1.30大学が、大学病院において、定年退職後再…

  2. 判例・裁判例コラム

    朝礼で職員同士が仲が悪いと発言した代表取締役の不法行為責任

    東京地裁R6.11.13代表取締役が朝礼において、全職員の前…

  3. 判例・裁判例コラム

    就業規則に休職期間の延長規定を設けた場合の効力

    大阪地裁R3.7.16社会福祉法人が就業規則で私傷病休職の期間につい…

  4. 判例・裁判例コラム

    適応障害による休職からの復職後も異常行動がある従業員に対する再休職命令の効力

    大阪地裁R2.7.9適応障害で休職していた従業員が復職後から異常行動…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    在宅勤務日のさぼり行為が発覚した場合に解雇できる?
  2. 判例・裁判例コラム

    試用期間満了20日前の解雇が解雇の選択の時期を誤ったものであり無効と判断された事…
  3. 判例・裁判例コラム

    PIP実施方法の問題点が指摘され、解雇が無効とされた事例
  4. 判例・裁判例コラム

    解雇事由調査のための休職命令と賃金支払義務
  5. 判例・裁判例コラム

    就業規則に休職期間の延長規定を設けた場合の効力
PAGE TOP