福岡高裁R7.8.28
外国人の技能実習について実習実施企業を訪問して指導する指導員として、協同組合に雇用されていた従業員が、割増賃金を請求。これに対し、使用者(協同組合)は事業場外労働のみなし制の適用を主張。これに対し、従業員は、業務日報に始業時間、終業時間、休憩時間のほか、行き先、面談者及び内容、それぞれの業務時間を記載して提出することが求められていたから、使用者は労働時間を算定可能であり、みなし制を適用できないと主張した。
→本件業務は、実習実施企業に対する訪問指導のほか、要する時間がケースバイケースとなる実習生の送迎、生活指導や急なトラブルの際の通訳等、多岐にわたるものであった。また、従業員は、訪問の予約を行うなどして自ら具体的なスケジュールを管理し、所定の休憩時間とは異なる時間に休憩をとることや自らの判断により直行直帰することも許されていた。使用者から随時具体的に指示を受けたり報告をしたりすることもなかった。
従業員は始業時刻、終業時刻、休憩時間のほか、行き先、面談者及び内容、それぞれの業務時間を記載した上で、毎月月末までに会社に提出することを求められていたが、使用者がその業務日報の記載の正確性を確認可能かどうかについてみると、従業員が本件業務に関し、自ら具体的なスケジュールを管理し、使用者から具体的な指示を受けることもなかったのだから、使用者が業務日報による申告の内容の真実性を確認するために事前に得られる情報は限られており、そもそも申告された内容につき疑義のある点を抽出することが困難である。そして、業務日報に記載された訪問先が訪問日、時間等を子細に記録し、保管しているとは通常うかがわれないから、使用者において実習実施企業に確認するという方法の現実的な可能性や実効性等は乏しい。また、使用者が業務日報の正確性について、現に実習実施企業に確認していたことをうかがわせる具体的な事情もない。事業場外労働のみなし制の適用は認められると判断
事業場外労働のみなし制についての最高裁判決が出た協同組合グローブ事件の差戻後控訴審判決です。
この事件では、当初、第一審の熊本地裁、控訴審の福岡高裁がいずれも事業場外労働のみなし制の適用を認めない判断をしていました。その理由の1つとして、従業員が提出していた業務日報について、使用者はその記載内容を訪問先に確認するなどして正確性を確認可能であり、この点も踏まえれば労働時間の算定が困難だったとはいえないという指摘がされていました。
これについて、最高裁は、上記の指摘は、単に業務の相手方に対して問い合わせるなどの方法を採り得ることを一般的に指摘するものにすぎず、訪問先に確認するという方法の現実的な可能性や実効性等は、具体的には明らかでないと判示して、控訴審判決を破棄し、審理を福岡高裁に差し戻しました。
これを受けた差し戻し後の福岡高裁の判決がポストの裁判例です。差し戻し後の福岡高裁では、①そもそも使用者が業務日報について疑義のある点を抽出することが困難、②訪問先もいちいち細かく訪問日、時間などを記録していない、③実際にも使用者から訪問先への確認が行われたとはうかがわれないことなどを挙げて、事業場外労働のみなし制の適用を肯定しました。
現実に即した妥当な判断だと感じます。





