判例・裁判例コラム

「私傷病休職中の未徴収の社会保険料」 を退職金から天引きできる? 会社の主張を東京地裁が否定する判断!

東京地裁R7.10.15
従業員がうつ病と診断されて私傷病休職。
1年を超える欠勤・休職を経て、会社は私傷病休職期間満了によりこの従業員を解雇。
そして、退職金支払にあたり、会社は、欠勤・休職期間中に従業員から徴収できていなかった健康保険料、厚生年金等の従業員負担分約19カ月分を退職金から差し引いた。
会社は、「控除したのは、社会保険料等の従業員が負担すべき義務の内容・金額が明確に定まっているものであり、そのほとんどが法令に別段の定めがある場合に当たるから、控除は労働基準法24条の賃金の全額払いの原則に反しない」と主張した。
→過去の賃金に対応する社会保険料等を退職金から控除することについて法令に別段の定めがあるとはいえない。 会社の主張を認めず、控除した分は退職金の未払いにあたると判断して、会社に支払命令。

労働基準法24条1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない 」として、賃金全額払いの原則を定めています。
ただし、例外として、法令に定めのある場合や、過半数代表者との労使協定がある場合は、賃金から、労働者が負担すべき金銭を差し引くことが認められています。
本件で、会社は、退職金から、休職期間中に発生した本人負担分の社会保険料を差し引くことについて、法令に定めのある場合にあたるから差し引くことができるという主張をしました。
たしかに、例えば健康保険料を企業が給与から天引きすることについては、健康保険法167条に規定がありますが、これは前月の健康保険料を給与から差し引ける(月末退職の場合は、退職月については前月と当月の健康保険料を差し引ける)という規定であり、この事案のように、さかのぼって長期間の分を差し引くことができるわけではありません。
差し引くことができないということになると、企業は、退職金を全部支払ったうえで、本人負担分の社会保険料を別途請求しなければならず、回収リスクを負うことになります。
そのようにならないようするためには、適切な労使協定を締結し、また退職金規程に適切な規定を置いておく必要がありました。

「発達障害を隠して入社」 障害を知った直後に解雇した事案! 横浜地裁の判断!前のページ

「休んだらどうか」と助言しただけではダメ。産婦人科部長の過重労働で病院敗訴【大阪高裁】次のページ

ピックアップ記事

  1. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  2. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  3. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  4. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  5. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    独自の休職基準を定める規定の効力

    東京地裁R6.9.25就業規則において、就労の可否は専ら使用者が指定…

  2. 判例・裁判例コラム

    入社前日の電話で内定が取消しに! それでも「有効」とされた理由とは?

    東京地裁R7.7.30 コロナ禍に眼科医院が30代の女性看護師に内定…

  3. 判例・裁判例コラム

    違法なガールズバーでの副業発覚は解雇理由になるか?

    東京高裁R5.10.30ソフトウェア会社で従業員のガールズバーでの副…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    会社に1000万円超の損害発生でも身元保証人は“責任なし” 高裁判決は会社の説明…
  2. 判例・裁判例コラム

    1年以上服薬せずに日常生活を送っていた休職者の復職可否判断
  3. 判例・裁判例コラム

    精神疾患からの復職にあたり、配転命令を拒否する従業員への対応事例
  4. 判例・裁判例コラム

    主治医の「在宅勤務推奨」の診断書があれば「在宅勤務させろ」は通るのか?大阪地裁の…
  5. 判例・裁判例コラム

    労働者がプレス機で手指を骨折して損害賠償請求。裁判所が会社を勝訴させた理由とは?…
PAGE TOP