判例・裁判例コラム

「休んだらどうか」と助言しただけではダメ。産婦人科部長の過重労働で病院敗訴【大阪高裁】

大阪高裁R7.12.24
地域で唯一産婦人科と小児科を備える病院で、産婦人科部長をつとめる医師が高血圧・めまいで勤務先病院に入院。
入院中も自分が主治医をつとめる妊婦の分娩を担当するなどしていた。
院長はこの医師が退院後にふさぎこんでいるという話を聞き、この医師に業務負担軽減等を意図した面談を実施。
その中で、婦人科における金曜日の診療を減らし、その減少分を休みにあてるようこの医師に提案した。
しかし、医師は、自身の業務負担軽減についての申入れ等はしなかった。
一方で、医師は妻子と離れて単身赴任し、妻は子らが通学のために転居した後も、医師と同居せず。
当時のメモに、「2年近くにわたる家庭の完全崩壊からは少し回復しつつあると考えるが、単身赴任の生活のシンドサ・虚無感は残る。まだ子供の問題は山積みで、家内からの援助をもらえる処まで回復していない」などと書いていた。
約半年後にこの医師が病院敷地内の医師住宅で自殺。
妻と子が、病院に損害賠償請求訴訟を提起。
病院は、医師の精神障害発病の原因は、家族関係の問題にあり、業務従事を原因とするものではないと主張。
→時間外労働や連続勤務、入院中勤務や他の医師との人間関係の悪化や他の医師による退職の示唆など、業務による心理的負荷の程度は大きなものであり、医師が家族関係の悩みを抱えていたことは否定できないものの、業務に起因して、精神障害を発病して自殺に至ったと判断。
そして、院長は一時的に他の医師や職員の協力を求めるほか、例えば、他機関に対し非常勤医師の派遣を要請するなどの方法により、この医師の業務負担軽減の措置を講じなければ、医師が心身の健康を損なう事態となり、精神障害を発病して自殺するに至る可能性があることを認識することができた。
にもかかわらず、院長は、業務負担軽減等を意図した面談を実施しながら、医師に対して助言をするにとどまっている。
安全配慮義務違反を認め、この病院に対し、妻と子に損害元本と遅延損害金の合計約2億7000万円を支払うよう命じた。

読むのもつらい事件です。
院長は、業務負担軽減等を意図した面談を実施して、診療を減らし、その減少分を休みにあてるようこの医師に提案していました。
しかし、医師が求めなくても強制的に休ませる必要がありました。
判決を踏まえると、院長は、
①一時的に他の医師や職員の協力を求める、
②他機関に対し非常勤医師の派遣を要請する
などしたうえで、
③医師を強制的に休ませるべきだたった
ということになるでしょう。
判決では、産婦人科の常勤医師が2名のみの体制下で、自身の業務負担軽減がもう1人の医師の業務負担増加に結び付くことは不可避であり、医師間の人間関係が悪化した状況の下、医師は自らの業務負担軽減を図ることが現実的でないと判断し、自らの業務負担軽減をもう1人の医師に対して提案することができなかったとみるのが自然かつ合理的であるとも判断されています。
休むように助言された労働者がそれを求めないとしても、そのことは業務が過多でないということを必ずしも意味しないと考える必要があります。

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